第十七章から前章(第二十二章まで)のあらすじ
星になった時間島は未来の地球近辺に時空間移動したが地球にも月にも人間がいない。そんな地球から戻った瞬示と真美とともに時空間移動船で月の生命永遠保持機構の本部の理事長室に集ったサーチが手術室長だったときに起こったクーデターの話をする。
キャミが徳川を暗殺するとカーンは豊臣時空間移動工業に逃げこんで脱出用以外のすべての時空間移動装置を破壊して逃亡する。キャミが悔しがるがクーデターは成功する。
忍者を知らないはずのサーチがクーデターで活躍した忍者を記憶していた。サーチの記憶が因果律を超えていることに住職やホーリーが驚くと時間島が因果律に介入したと確信する。
手術室で胎児が入ったガラス容器が発見したサーチはリンメイが生体内生命永遠保持手術を開発したことを知る。その手術で生まれた胎児が遮光器土偶に変態して月を大混乱に陥れる。
全員が前線第四コロニーの旗艦セント・テラで地球に向かう。動かなくなったアンドロイドの記憶装置を回収して編集されたデータから新たな事実が浮かびあがる。
【時】永久0246年
【空】第五生命永遠保持センター
[494]
地球連邦軍地下司令部
摩周クレーター
【人】キャミ リンメイ ミト
***
地球連邦軍の非常時地下司令部の司令官室のドアが開くとリンメイが現れる。キャミが驚いて立ち上がる。
「どうしたの!」
老婆のようなリンメイを見てその場に立ちすくむ。
「胎児が猛烈な勢いで生体維持液を大量に消費しました」
「そうじゃない!リンメイ!あなたのことよ!」
リンメイは何を言われているのかわからないという表情をしたあと報告を続ける。
「それに胎児が月のすべてのエネルギーを貪りました」
「確かに保育装置室が集中的に月の電力を消費したという報告を受けたわ。何が原因なの?」
リンメイに背を向けてからキャミは机に腕を立てて身体を支えると深く息を吸ってフーと吐きだす。
[495]
「恐らく、胎児が要求したと思われます」
リンメイがキャミに近づく。
「先を進めてちょうだい」
リンメイは胎児が遮光器土偶のような身体に変態したことを詳しく説明する。そして恐るべき黄色い光線のことに話が移るとキャミの眉間にシワが刻まれる。キャミは単なるうわさにすぎないと思っていたが、今、事実として受けいれる。
「禁断の園に立ち入ってしまったのかも知れません」
キャミは椅子に座るがシワだらけのリンメイの顔を正視できない。
「捕獲できる可能性は?」
天井に視線を逃がしてキャミが尋ねる。
「わかりません」
キャミが探るように机の上のインターホンのボタンを押す。
「地球連邦軍の司令官と月面軍の司令官にここへ来るように伝えなさい」
リンメイがキャミの机からメモ用紙とペンを取る。キャミがそんなリンメイに視線を戻すと自分を落ち着かせるためにあえて言葉にする。
「とにかく現状を把握しなければ」
リンメイはテーブルに着くと一気にペンを走らせる。BS3を月に残した今となっては自分
[496]
が見たことを克明に記録しておくことが使命だと、保育装置室での事件を懸命に書き残そうとする。
「地球連邦軍の司令官からの通信です」
男の声がインターホンのスピーカーから流れる。
「司令官のミトです」
「キャミです」
「第五生命永遠保持センターが何者かの攻撃を受けています」
「第五生命永遠保持センター!」
ミトの冷静な報告にリンメイがペンを床に落として飛び上がるとキャミの脳裏に不吉な予感が走る。
***
昔、リンメイが勤めていた第五生命永遠保持センターでは遮光器土偶に変態して背丈が五〇センチほどの幼児が女性スタッフを次々と黄色い光線で殺戮する。スタッフがレーザー銃で応戦するが土偶には通じない。
第五生命永遠保持センターのテレビカメラがその様子を地球連邦軍の司令官室に送信し続ける。キャミやリンメイが第五生命永遠保持センターに向かうために乗りこんだ高速武装エアカ
[497]
ーのモニターにもその様子が映される。
「これが!」
キャミが絶句する。
「成長している!」
リンメイも目を細めてモニターを見る。
「第八二生命永遠保持センターも何者かの攻撃を受けています」
リンメイとともに後部座席に座るキャミが前部座席の背中に埋めこまれたハンドセットを手にすると地球連邦軍司令部の緊急回線を呼び出す。
「将軍キャミです。ミトにつなぎなさい」
「司令官は今、応答できません」
「じゃ、伝えなさい」
「はい」
「完全武装した兵士を至急第八二生命永遠保持センターにも派遣しなさい」
「すでに手配済みです」
キャミはミトが適切に手を打っていることに安堵する。続けて報告が入る。
「第三八三、第五一四、第九九八及び第二七〇六生命永遠保持センターにも手配しています」
キャミの全身が震えると横でリンメイが指を折る。
[498]
「六か所……胎児の数は確か八体!」
リンメイが大声でキャミに訴える。
「もう二か所やられるわ!」
しかし、地球連邦軍司令部との通信がここで途切れる。
「彼らは自力で空間移動できる!」
リンメイがしわしわの両手で顔をおおう。
***
地球連邦軍の緊急攻撃隊が第五生命永遠保持センターに突入するが、まったく生体反応がない。
「救援要請を受けてここに来るまで十分しかたっていないというのに」
緊急部隊の隊長が第五生命永遠保持センターの正面玄関で悲痛な声をあげる。スタッフが折り重なって土の塊になっているからだ。
戦車が到着するとライフルレーザーを構えた兵士が用心深く各部屋を探索する。一階の探索を終えて二階へ移動するために中央階段に集結したとき、階段の踊り場で遮光器土偶に変態した幼児が立ちはだかる。
「何!あれは?」
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「気持ち悪いわ」
合唱するようなどよめきのなか土偶の丸い目がうっすらと開く。その目から鋭い黄色の光線が発射されると、うろたえて動きが止まった兵士を包みこむ。戦闘服が引き裂かれて次々と倒れる。戦闘服を着用しているので蒸発することはない。しかし、倒れた兵士の顔はすぐに土色に変わり、やがて全身が土となって戦闘服の裂けたところから押し出される。
後続の兵士から怒濤のごとくライフルレーザーが発射されると土偶の身体が粉々に飛び散る。
「仕留めたわ!司令部に報告を……」
歓喜の声をあげて兵士が抱き合う。犠牲はあったが任務を全うした喜びを誰もが声にする。
「こちら緊急攻撃隊の……」
隊長がまわりに大声をあげる。
「静かに!通信中です」
波を打ったように歓声が静まる。通信兵の声だけになったとき、どこからともなくヒュウヒュウという聞きなれない音がする。
破壊された土偶のチリと倒れた兵士の土が空中に舞いながら階段の踊り場に集まりだす。見る見るうちに空中で土偶の頭部が形成されていく。そして急速に元の身体に戻ろうと首へとチリを集めながら、浮いたままの頭部の目からいきなり黄色い光線を発射する。前方の兵士が次々と倒れる。
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「攻撃!」
その隊長の防護服が裂けるとその命令とは裏腹に兵士が一目散に階段から玄関ロビーに逃れようと走りだす。土偶は胴体そして足へと元の姿に戻っていく。復元を完了した土偶はひとまわりもふたまわりも大きくなって地面に足を着けることなく、空中に浮いたまま逃げる兵士を追って玄関から表に出る。
玄関では戦車が待ちかまえている。戦車に興味を示すことなく土偶はまわりの兵士に黄色い光線を乱射すると一挙に何十人かの兵士が犠牲になる。戦車の砲身が照準を合わせると至近距離から太く青い光線を浴びせる。土偶は跡形もなく吹っ飛ぶと茶色のチリが霧のようにたちこめる。
「やった!」
「今度こそ、やったわ」
兵士たちから乾いた歓声があがる。
しかし、すぐに霧のような茶色のチリが空中で不気味な渦を巻きはじめる。死んで土となった兵士の戦闘服から漏れた土もいっしょになって舞い上がる。チリと土が空中で混ざりあって連続的にヒュウヒュウという音を立てながら集結する。
「撃て!撃て!」
残った兵士がライフルレーザーを密度が高まるチリに向かって連射する。チリが土の塊と
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なる前に散乱するがそれでもヒュウヒュウという音を立てながらチリと土が執拗に集結しようとする。
兵士は一斉に空っぽになったエネルギーカートリッジを交換する。そしてライフルレーザーを構えたときにはチリと土は目の前から渦を巻きながら急速に上昇して十数階建ての第五生命永遠保持センターの屋上で集結する。
「ここからでは見えない!」
「屋上へ!」
すぐさま残った四、五十人ばかりの兵士がセンターに駆けこみエレベーターを目指す。一方、戦車の砲塔部分が大きな音をたてて本体からジワッと浮きあがると垂直に上昇する。
屋上ではチリが集まって土偶が元の形を取り戻しつつある。
「また大きくなっている!」
最初に屋上にたどり着いた兵士が叫ぶ。死んだ兵士の土を取りこんで体長三メートルほどの大きさに成長している。その目がうっすらと開いたとき戦車の砲塔部分が屋上に現れる。強烈な光線が発射されて砲塔部分が一瞬にして蒸発する。復元を完了した土偶の反撃がはじまる。
しかもその攻撃は機敏だ。
屋上のいくつかの扉から次々と兵士が飛びだしてライフルレーザーを撃ちまくる。しかし、さらに大きくなった土偶は以前よりもはるかに強力な黄色い光線を兵士に浴びせる。
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***
キャミとリンメイの高速武装エアカー内のモニターには何も映っていない。エアカーは第五生命永遠保持センターの上空で浮いている。
「ダメだわ、破壊してもすぐに復元する!」
キャミの顔には血の気がまったくなく、リンメイの額にはひびが入ったような深いシワが刻まれている。
「あっ!」
リンメイがキャミに向かって興奮した叫び声をあげる。
「将軍!攻撃を中止してください!」
「なぜ!」
「アイツは死んで土になった兵士の身体、そう!土を取りこんで成長しています!」
「えっ!」
苦心して誕生させた胎児を「アイツ」と呼び捨てたリンメイの言葉にキャミが強く反応する。
「兵士の犠牲が増えるほどアイツは成長するのです!攻撃を中止して撤退すべきです」
「人間を食い物にして成長するなんて」
キャミがハンドセットを握りしめて撤退命令を出すとすぐにミトを呼び出す。
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エアカーは成長した土偶に気付かれないように第五生命永遠保持センターから遠ざかる。屋上には兵士の姿はない。土が流出してぺチャンコになった戦闘服で埋めつくされている。
一方、土偶のまわりでは死んだ兵士の土がチリのように浮遊しながら土偶の身体に付着する。土偶が動きを止めて立っている。ヒュウヒュウという音が支配する屋上から近くにある大きな池をじっと眺める。そこは元々御陵のあったところだ。
「ミトです。連絡が遅れて申し訳ありません」
「全軍を撤退させなさい」
ミトが事務的に応える。
「すでに全軍に攻撃を中止して各地の生命永遠保持センターから撤退するよう命令しました」
ミトは前線の状況を完全に掌握していた。誰の指示やリンメイの知恵も借りずに戦闘を中止して撤退するという最善策をいち早く判断して実行していた。
***
ミトの判断は素早くまったく正しかった。戦えば戦うほど味方の犠牲が増えるばかりか、皮肉なことに土偶を成長させてしまう。土偶は生命永遠保持手術で人間が得た回復力をはるかに上回る復元力を持っている。しかも、逃げても逃げても執拗に地球の約一万か所の生命永遠保持センターを次々と攻撃した。避難命令を忠実に実行したセンターのスタッフだけが攻撃から
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逃れることができた。
土偶はほぼすべての生命永遠保持センターを壊滅させると次は手当たり次第に人間を襲って土となった死体を取り込み巨大土偶へと成長する。
「攻撃しなければ成長を抑えることができる」
うなだれるようにリンメイが発言すると重大な疑問を持つ。
「もし、生命永遠保持手術を受けていない人間がいたとしたら、その人間も土偶は殺すのかしら?手術を受けていない人間は死んでもすぐ土にはならない」
「でも、逃げ回るだけではどうしようもないわ」
このキャミの言葉でリンメイの疑問が中断する。リンメイはキャミと同じようにため息をついてうつろな眼差しで作戦室の低い天井を見つめる。
生命永遠保持センターの、豊臣時空間移動工業の、地球連邦軍の幹部、そしてその他重要なポストにいる者が地球連邦軍の地下司令部作戦室に集まって対策を協議する。
ミトは地球連邦軍の時空間通信管制室で下士官に次々と命令を出す。そのミトから地下司令部のキャミに連絡が入る。
「地球から脱出すべきです」
誰もが男の声に聞こえるミトの意見に違和感を抱かない。それほど事態が逼迫している。そんな雰囲気の中で冷静にキャミがミトに尋ねる。
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「状況は?」
「それより地球を脱出することを考えてください」
「どこへ逃げても、あいつらは追いかけてくるわ」
ミトが一息置いてキャミの意見に同意する。
「あいつらが単独で空間移動できるのはイヤというほどわかっています」
ミトがキャミに力をこめて続ける。
「しかし、月は全滅していません」
地下司令部の作戦室に響くミトの声に幹部全員が我に返ったようにうなずく。月面の施設で被害を受けたのは生命永遠保持機構の本部だけだ。ただ、月全体のエネルギーが枯渇したので地球へ脱出したのだ。遮光器土偶に変態した幼児は月面で脱出が遅れたほかの施設の人間には目もくれず、すぐに地球に移動してきた。元々月の人口は少ないし、そのほとんどが地球に脱出していた。
「あいつらの目的は生命永遠保持機構の施設とそのスタッフだと考えられませんか?ひょっとして生命永遠保持手術を受けた人類そのものが標的なのかも知れません」
スピーカーから流れるミトの冷静な声にリンメイが大きくうなずく。
それまでの地球の都市といえば歴史的に存在感がある構造をしていた。しかし、生命永遠保持手術が開発されると生命永遠保持センターを中心とした構造に変わった。それは生命永遠保
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持手術を受けても毎年検診を受けなければならないからだ。
「月面の本社工場には未調整の時空間移動装置が十万基あるわ」
豊臣時空間移動工業の小柄な女の幹部が小ひざを叩く。
「その程度の数の時空間移動装置では地球にいる人間を全員脱出させることはできないわ」
キャミが豊臣時空間移動工業の幹部に反論する。しかし、キャミに同意を求めるミトの声がする。
「いえ、できます」
「ミト!すぐこちらへ来るように」
「今、そちらに移動中です」
***
開いたドアからミトが地下司令部作戦室に現れる。ミトを初めて見る各幹部からどよめきの声が聞こえる。どう見てもミトは男だ。
ある戦闘で女の軍隊の捕虜となったミトは去勢された。しかし、沈着冷静なミトは捕虜の身でありながら数々の実績と信頼を築き上げて、やがて女が支配する地球連邦軍の司令官にまで昇進した。キャミですらミトに一目も二目も置くほど信頼しきっている。そして今、女の命運を握る男として地下司令部作戦室の中央に立つ。
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「アンドロイドが製造した超大型時空間移動船を使います」
全員、あ然としてミトを見つめる。
「我々は人口が増えないので宇宙開発に興味を失いましたが、アンドロイドは我々がいつでも宇宙開発ができるように黙々と様々なものを開発、製造しています」
「ミト、これからの作戦の説明をしてください」
「先ほど、一部の兵士を時空間移動装置で月に移動させました」
ミトが全員の視線を浴びて電子黒板の前に立つ。
「その兵士達に月面の豊臣時空間移動工業の時空間移動装置にひとりずつ乗りこませて地球に移動させます」
すぐさまミトが電子黒板に説明図を手書きする。作戦室の天井の大きな浮遊透過スクリーンにも同じ説明図が映される。
「五人で地球に来た一基の時空間移動装置で月に移動して五基の時空間移動装置で地球に戻ります。これを繰り返して……」
ミトは図を書き終えて振り返る。
「時空間移動装置をリモートコントロールできればこんな回りくどいことをせずに済むのですが、今は仕方ありません。ともあれ人海戦術で地球に移送した十万基の時空間移動装置に精鋭隊を乗りこませて、あの成長した土偶に陽動作戦を仕掛けます」
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ミトが次の言葉を続けようとしたとき、時空間通信管制室の下士官が部屋に入ってきてミトにメモを渡す。
「前線コロニーからの報告です。今のところ五百隻ほどの超大型時空間移動船が地球に向かう準備をしています」
「ちょっと待って!さっきから言っている超大型時空間移動船とはいったい何なの?」
思わず立ち上がってキャミが説明を求める。
「文字どおり何万人もの人間を乗せて時空間移動可能な宇宙船です」
ミトの応えは素っ気ない。
「誰がいつの間にそんなものをアンドロイドに製造させたの?」
「ノロという……女ではなく男らしいのですが……その男が製造したといううわさが流れています。超大型時空間移動船を設計してアンドロイドに製造させた過程は不明です。それより作戦の内容に入ります」
「ノロ?」
全員から半信半疑のため息が漏れる。ミトはため息を無視して電子黒板に、C1、C2、そしてC12までの文字を書き上げる。
「前線コロニーは全部で十二あります」
そしてC1、C3、C7、C8に◎印を付ける
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「この◎印の前線コロニーは私達の支配下にあります」
今度はC2、C6、C9に×印を付ける
「この×印の前線コロニーは男の軍隊の支配下にあります」
ミトがさらにC5、C10に○印を付ける
「残りの五つはいわゆる独立コロニーと呼ばれる前線コロニーでどちらの勢力も及んでいませんが、この○印のふたつからはこちらの要求を受けいれるという連絡がありました」
「ミト」
キャミはノロという男が気になるのか、口をはさむ。
「超大型時空間移動船を製造したノロというのは何者なの?本当にその超大型時空間移動船で時空間移動ができるの?」
「はっきりとはわかりません。宇宙海賊の一員、あるいはボスだといううわさを聞いたことがあります」
ミトはまずキャミの前半の疑問に答える。
「宇宙海賊……とにかくそのノロが設計した超大型時空間移動船をアンドロイドが大量生産したのね」
「らしいのです。先ほども申し上げたように製造の目的や過程は不明ですが、今は超大型時空間移動船に頼るほかに手立てはありません」
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ミトが作戦の説明を続ける。
「C11は超大型時空間移動船の製造を行っていません」
ミトはC11に×印を付けてから、C12にも×印を付ける。
「C12は元々完成第十二コロニーでしたが、永久0215年の戦闘が災いして移動船の建設能力を持つに至っていません」
キャミが大きくうなずく。そのコロニーは瞬時と真美が現れたコロニーだった。
ミトがメモを確認しながらC4に大きな×印を付ける。
「C4、つまり前線第四コロニーは永久0215年に忽然と消えました」
「えっ!」
キャミが大声を張りあげる。ミトはもちろんのこと作戦室にいる全員が一斉にキャミを注視する。
「私は男の軍隊の将軍カーンと協議して永久0215年に前線第十二コロニー(C12)、格下げされる前は完成第十二コロニーと呼ばれていたコロニーでふしぎな男と女(瞬示と真美のこと)に遭遇した事件のデータをすべて前線第四コロニーの中央コンピュータに保存しました」
「もちろん、承知しております。そのときの休戦会議に私も出席しました」
ミトにキャミは視線を固定したまま大きくうなずくが合点できない。
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「その後何年もひっきりなしに前線第四コロニーの中央コンピュータから情報を引きだしていたのよ!」
「将軍のおっしゃるとおりです」
しかし、ミトはまったく動じる気配を見せない。
「地球連邦軍の中央コンピュータによると、確かに前線第四コロニーはほんのしばらく前まで存在していたのですが、不可解なことにあの永久0215年まで時間をさかのぼって消滅したらしいのです」
「時間が逆転したとでも言うの!」
キャミがミトをにらむ。
「将軍。断定はできませんが、そのように考えざるを得ません」
今度は全員の視線がすべてミトに向けられる。キャミは混乱したまま不満な表情を崩さない。
「事実は事実なのです。前線第四コロニーは我々が今いるこの現実時空間には存在しません」
ミトは失礼を承知の上でキャミを無視して再び電子黒板に身体を向ける。
「アンドロイドが改造中の前線コロニーのうち我々の軍隊が利用できるのは六か所で、そこから上積みしてほぼ百隻ずつ、合計六百隻の超大型時空間移動船を調達します」
ミトはC1、C3、C5、C7、C8、C10の文字を大きな○で囲む
「一隻に付き五万人の移動が可能です」
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「五万人も!」
このミトの説明に先ほどの前線第四コロニーの話題が消えて、「オー」という歓声があがる。
しかし、豊臣時空間移動工業の幹部はミトに不信感を抱く。
「残念ながら今の地球の人口は六千万人まで減少しました」
まるで犬のように人間のニオイをかぎ分けては黄色い光線を浴びせる巨大土偶の姿が全員の脳裏をよぎる。巨大土偶によって全人口の四分の三の女が殺されたことになる。
「二回、たったの二回のピストン移動で生存者全員の脱出が可能です」
ここで十人ほどの下士官が部屋に入ってきて作戦資料を全員に配る。
「移動先は我々の支配下にある十二か所の完成コロニーです」
資料の中身はミトが述べてきたことを詳しく文書にしたものだ。
「完成コロニー一か所当たり五百万人の受けいれが可能です」
しばらくは紙をめくる音しか聞こえない。
「この作戦を実行するに当たってふたつ留意すべきことがあります」
地下司令部作戦室の全員が手元の資料から身を乗りだしてミトの次の言葉を待つ。
「まず、超大型時空間移動船は一度時空間移動を行うと次の時空間移動の準備のために約六時間必要です」
「えっ!」
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真っ先に豊臣時空間移動工業の幹部が驚く。ミトが残念そうにその幹部に視線を移す。
「超大型時空間移動船には時空間移動装置のような機動力はありません」
キャミがミトの意図を確かめる。
「一時間に一万人を超大型時空間移動船に収容しても、五万人なら五時間かかるわ」
「そうです。逆に六時間以内に五万人収容しなければなりません」
「そうすると全員地球を脱出するのに十八時間もかかる」
誰かがミトに問題提起する。
「いいえ、十二時間あれば脱出できます」
「第一次脱出者を乗せた時空間移動船は脱出先の完成コロニーで次の時空間移動に六時間必要だわ」
先ほどの発言者とは異なる声がミトに強い疑問を投げかける。
「そのとおりです。しかし、第一次脱出者が脱出した直後の地球の時間点に超大型時空間移動船を時空間移動させればいいのです。そうすれば地球上では六時間節約したように見えます」
ミトが超大型時空間移動船の欠点を知りつくした上で作戦を立てていることにキャミは頼もしくミトを見つめる。
「もうひとつの留意点は?」
「これを見てください」
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天井の浮遊透過スクリーンに海辺に近い生命永遠保持センターの建物が映しだされる。
「二日前の第九一一生命永遠保持センターです」
地球連邦軍の攻撃で巨大化した土偶が粉々になった瞬間の画面にかわる。晴れあがった美しい海をバックにチリが渦を巻くように集結する。土偶の復元が始まったのだ。
「海に注目してください」
ミトが浮遊透過スクリーンに映された水平線上の海に矢印のマークを走らせると白い壁のようなものが現れる。
「ご存知かと思いますが、これは地震による大津波です」
高さが数十メートルもある大津波が見る間に画面手前に近づく。そして復元しようと集結するチリを蹴散らすかのように押し寄せる。ここでミトがきっぱりと結論を披露する。
「このあと、チリは集合することができなかった。いいですか、あいつらは水に弱いのです」
全員、浮遊透過スクリーンからミトに視線を移す。
「巨大土偶が元の姿を取り戻したのはつい先ほどです。言い訳するワケではありませんが、その確認のためにここへ来るのが遅れました」
そのとき作戦室のドアが開いて地球気象制御管理局長が入ってくる。
「地球気象制御管理局長のチェリーです」
チェリーが頭を下げるとすぐ発言する。
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「ミト司令官からバケツをひっくり返したような雨を同じところに丸一日降らすことが可能かという質問を受けました」
キャミが小ひざを強く叩く。
「津波の代わりに雨を使うの?」
キャミの言葉にミトが初めて笑顔を見せる。
「おっしゃるとおりです」
ミトがチェリーにさらなる説明をうながす。
「一週間連続でも可能です」
「半日、つまり十二時間でいい。一週間分を派手に降らせてくれ」
チェリーからミトが視線をキャミに戻す。
「そこへ巨大土偶をおびきだして集中攻撃をかけます。豪雨の中では復元できないはずです。その間に地球脱出作戦を完了させます」
キャミがミトとチェリーに微笑みかける。
「わかりました!チェリーをミト司令官の直属とします」
「ありがとうございます」
ミトがチェリーとともにキャミに向かって深々と頭を下げる。
「精鋭部隊が巨大土偶を引きつけている間に地球を脱出してください」
[516]
ミトが胸を張って宣言すると室内から割れんばかりの拍手が鳴り響く。キャミがゆっくりと立ち上がると満足そうにミトに近づいて握手を求める。
「大人の知恵で、子供を出し抜いてみせるわけね」
「いいえ、巨大土偶はもう胎児でも子供でもありません。大人とみなして戦うべきです」
***
ミトが地球と女の生存を賭けた壮大な作戦を開始する。いよいよ十万基を超える時空間移動装置に乗りこんだ地球連邦軍精鋭部隊が巨大土偶に戦いを挑む。
まず数千基の時空間移動装置が巨大土偶の周辺に突然現れる。気を引こうと大量の羽虫のようにまわりを飛び回る。緩慢だが巨大土偶の頭部が左右に揺れるとすべての時空間移動装置がパッと姿を消す。少し時間を置いて再び大量の時空間移動装置が現れると同じように飛び回ってから消える。巨大土偶の目が黄色に輝きだすが照準を合わせるどころか、何もできずに空中に浮かんだままあの二重のまぶたを開いたり閉めたりする。
しかし、時空間移動装置から攻撃がないことを理解したのか、じっとあたりを見渡す。再び現れた時空間移動装置に素早く光線を発射するが、今回現れた大量の時空間移動装置は摩周クレーターに空間移動する。間一髪入れず巨大土偶もこの空間から消える。摩周クレーター上空に時空間移動装置が現れるとすぐに巨大土偶も現れる。すぐさま時空間移動装置が摩周クレー
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ターから消えると巨大土偶も追従する。このようにして八組に分かれた十万基あまりの時空間移動装置が巨大土偶を翻弄する。
「リンメイは巨大土偶は八体だと言っていたが、七体しかいない」
しかし、ミトの疑問をよそに巨大土偶の学習能力が急速に高まる。時空間移動装置が現れる場所を予測して先回りして機敏に攻撃する。その結果数時間に及んで何百回も繰り返された翻弄作戦のあと時空間移動装置は半減してしまう。しかし、一体少ない巨大土偶のために準備された八組目の時空間移動装置はまったく無傷で維持されていた。この八組の時空間移動装置が後の作戦に重大な役割をすることになろうとは今のミトには想像さえできない。
「手強い子供たちだ。いや、子供ではない」
時空間管制室で指揮するミトは脂汗を流す。空間移動のタイミングや移動先を組み替えて作戦を実行するが巨大土偶の空間移動が時空間移動装置よりも素早くなる。実は巨大土偶の空間移動は単なる三次元の世界の空間移動ではなく、ミトの想像をはるかに超えた次元移動なのだが、ミトはおろか誰にも理解不能だった。
ミトは巨大土偶の空間移動のテクニックを分析してバラバラだった七体を一か所に集める戦術に切り替える。
「今だ!陽動作戦実行部隊の時空間移動装置はすべて摩周クレーターに集合しろ!」
そして気象制御管理局のチェリーに命令を下す。
[518]
「摩周クレーターに大雨を降らせろ!」
作戦開始から五時間が経過した。あと一時間稼げば第一次脱出作戦が完了する。ここで初めてミトは巨大土偶に成長した胎児が七体しかいないことに不安を覚える。月の生命永遠保持機構の本部で胎児が一体死んでいることなど知るすべもない。
「八組目の時空間移動装置は脱出間近な超大型時空間移動船の警備につけ!」
司令部を出てミトは自ら時空間移動装置に乗りこむ。そして七体の巨大土偶を摩周クレーター上空に集めるため陣頭指揮を取る。再び多くの犠牲者を出しながら、何とか大雨の摩周クレーターに七体の巨大土偶を集めることに成功した。
摩周クレーターでは滝のような雨が降っている。隣にいる者の顔さえ見えないほどの豪雨だ。はっきりと目視できないが土偶の身体は優に百メートルを超えて巨大土偶というにふさわしいほどまで成長していたが、大雨に戸惑うかのように空中に漂う。ミトの思惑どおりだ。
「オーストラリアに待機する部隊の拡散バズーカレーザー砲の準備は万全だろうな」
ミトは温存した最精鋭部隊の時空間移動装置五百基の確認を促す。
「司令官!準備万端です」
「わかった!」
ミトが次の作戦の開始を決断するが下士官がミトに進言する。
「待ってください。拡散バズーカレーザー砲を使えばあいつらを粉々にできますが、下手すれ
[519]
ば成長させるだけです」
「承知の上だ」
ミトが目の前のモニターに映る摩周クレーター付近の暗視映像を見つめる。上空が分厚い雲におおわれていることを確認してチャンネルを切り替える。モニターには二万基ほどの時空間移動装置の影が淡く映しだされる。
「いったん、我々はアラスカ上空へ移動する」
「了解!」
「代わりにオーストラリアのバズーカレーザー部隊をここへ移動させて摩周クレーターの島に上陸させろ」
ミトが全軍に命令を下す。
「アラスカへ移動!」
摩周クレーターの上空からミトが率いる二万基の時空間移動装置隊が姿を消す。七体の巨大土偶もすぐさまミト達を追って摩周クレーターから姿を消す。
摩周クレーターの上空に五百基の時空間移動装置隊がオーストラリアから移動してくる。操縦士を除く全天候用のスコープを顔に装着した兵士が肩に拡散バズーカレーザー砲を担ぐと背中の小型エアジェット装置を巧みに操って豪雨の摩周クレーターの真ん中の島に向かう。その数二千人。
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そして到着すると肩から拡散バズーカレーザー砲を降ろして点検作業に入る。もし雨が降っていなかったら小さな島に所狭しと産卵のためにペンギンがひしめきあっているように見えるかもしれない。
しばらくするとミトの率いる時空間移動装置隊と七体の巨大土偶がほぼ同時に摩周クレーター上空に現れる。しかし、ミト率いる部隊はその数を激減させていた。アラスカ上空にいたわずかな間に巨大土偶の攻撃で半数以上が破壊された。
戻ってきた時空間移動装置が摩周クレーターの湖に着水する。上空の巨大土偶はキョロキョロするだけで、予想どおりその動作は大雨の影響を受けて明らかに緩慢になっている。
「最後の戦いだ!作戦どおりに七組に分かれて攻撃せよ!」
ミトが全軍に命令を下す。拡散バズーカレーザー砲の照準が一斉に巨大土偶に合わされる。
「第一次攻撃開始!」
二千ある拡散バズーカレーザー砲から紺色の太い光線が発射される。兵士たちは素早くエネルギーカートリッジを交換して巨大土偶に向かって連射する。たたきつけるような雨が降る中、その雨粒の数をはるかに上回る紺色の太い光線が六体の巨大土偶に命中する。
一体の巨大土偶だけが拡散バズーカレーザー砲の光線を浴びる直前に急上昇する。巨大土偶に命中した紺色の光線は様々な方向に飛び散ると輝く白色に変化して再び巨大土偶を包みこむと大きな光の玉となる。次の瞬間、巨大土偶が大音響を立てて粉々になる。
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一方、攻撃を逃れた一体の巨大土偶は雨を避けるため低くたれ下がった黒い雲を突きぬけてその姿を消す。それを見たミトが慌てて断続的に命令を出す。
「偶数組の時空間移動装置は今すぐ空間移動せよ!」
「偶数組の兵士はそのまま島に残れ!真上からの攻撃に備えよ」
「奇数組の兵士は急いで時空間移動装置に乗りこめ!」
「乗り込みが確認できたらすぐここから離れろ!」
黒い雲の中から何本もの太い黄色い光線がまっすぐな稲妻のように時空間移動装置や島に残った兵士に襲いかかる。移動の遅れた時空間移動装置が次々と爆発を起こす。
「しまった!」
ミトは心の隅で巨大土偶を子供たちと侮ったことをくやむ。すぐさま二十基ほどの時空間移動装置を引きつれて雲の上に移動する。
雲の上に出たとたん、目の前にいる巨大土偶が空間移動した偶数組の時空間移動装置を追って摩周クレーター上空から消える。
兵士を乗せずに空間移動した偶数組の時空間移動装置は難を逃れたが、兵士を回収しようとした奇数組の時空間移動装置の大半が破壊された。島に残った兵士も八割以上が土と化して雨に洗われて湖に沈んでゆく。
摩周クレーターから空間移動した偶数組と残りの都合約一万基の時空間移動装置が再び地球
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上のあちこちに出現しては消える。一体のみとなった巨大土偶の追跡に時空間移動装置はあまり苦労することなく空間移動を繰り返して逃げ回る。
ミトはもう一度同じ攻撃方法を採るべきかどうか迷う。犠牲者が余りにも多かったことがミトの判断を揺さぶる。しかし、後退は許されない。やっと決断する。
「残りは一体だ」
ミトが島に残った兵士に現状を報告させるが、粉々になった六体の巨大土偶が復元する兆候はなかった。
「雨の効果だ」
ミトは大きくうなずきながら自信を持ってちりぢりに地球を空間移動するすべての時空間移動装置に対して命令を発する。
「一四〇〇時に再び摩周クレーターに戻れ!」
ミトは作戦が徹底されているかどうか確認しながら命令を続ける。
「巨大土偶が現れたら、島にいる兵士は即座に攻撃せよ」
***
一方、六百隻もの超大型時空間移動船に次々と女が乗船する。男の軍隊との壮烈な戦争をくぐり抜けた女の行動は整然としている。乗船するとアンドロイドの誘導にしたがってイエロー
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ボックス室で待機する。
定員となった超大型時空間移動船はゆっくりと上昇して大気圏外に達すると、すべての女達がイエローボックスに入って時空間移動に備える。しばらくすると超大型時空間移動船は忽然と姿を消して完成コロニーに向かって時空間移動する。
時空間移動した超大型時空間移動船は六時間後の地球に戻るのではなく、緊急集結地点で順番を待つ女の前にすぐ戻ってくる。
確かにコロニーに到着した超大型時空間移動船は脱出者全員を下船させる時間を含めて次の時空間移動の準備に六時間を要する。だが、超大型時空間移動船は地球から時空間移動した直後の時空間に現れる。だから、すぐに戻ってきたように見える。
ミトの言うとおり十二時間あれば全員を地球から脱出させることができる。六百隻の超大型時空間移動船がすべて戻ってくるとすぐさま乗船が再開される。
***
第一次作戦が終了してから三時間ほどたった。全世界に散っていた時空間移動装置が摩周クレーターに集結する。相変わらず大雨が降っている。すぐさま巨大土偶が現れる。
「攻撃!」
島にいる兵士から拡散バズーカレーザー砲が巨大土偶目がけて連射される。
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巨大土偶は反撃することもなく拡散バズーカレーザー砲の光線に包まれて粉々に破壊される。
「呆気ないな」
ミトが拍子抜けする。
「同じ過ちをしてくれた」
粉々になった巨大土偶のチリは集まることなく雨とともに摩周クレーターの湖に落ちていく。しかし、いずれ集結するはずだ。津波で拡散されても元の身体を取り戻したのだから。
「地球脱出作戦が完了するまで油断するな」
ミトが島にいる兵士の撤収を進める一方、摩周クレーターの隅々を探索させる。
「巨大土偶が復元する兆候を発見したら直ちに報告せよ」
大量の雨が降り続くが、湖の表面は雨の波紋は別にして波ひとつなく静まりかえっている。
「超大型時空間移動船の第二次脱出作戦完了まで、あとどれくらいだ?」
「二時間五十分です」
ミトが座席をリクライニングさせる。ここまでは一応ミトの思惑以上に作戦は進み、成功を収めた。ただし、味方の被害はミトの予想をはるかに上回った。五十万人いた兵士のうち生存しているのはわずか二万人そこそこ。一〇万基あった時空間移動装置もたったの一万基になってしまった。
ミトがマイクを取りあげて送信ボタンを押す。
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「将軍!七体を破壊しました。残り一体については、いまだ我々は遭遇していません」
「ミト!よくやりました」
「まだ安心できません。リンメイの報告では胎児は全部で八体です」
「先ほど判明したのですが胎児は七体です。一体は生命永遠保持機構の本部で死亡したようです」
「えっ!」
ほっとしたミトが手短に戦況を報告する。
「あまりにも犠牲が大きすぎました。あとで責任を取ります」
ミトが絞りだすような声で報告を締めくくる。
「ミト!あなたは立派にやりとげました!多数の兵士が犠牲になった責任は私にあります」
「……」
「私も最後に超大型時空間移動船に乗りこみます」
「ひとつ心配なことがあります」
「なんですか?ミト」
「これだけの大事件です。しかも私達の軍隊は壊滅的なダメージを受けました」
「単刀直入に言いなさい」
「地球からの避難者を受けいれる完成コロニーに男の軍隊が攻撃を仕掛けるかもしれません」
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キャミの返事はない。
「前線コロニーから、六百隻もの超大型時空間移動船を調達したのです」
やっと返事がする。
「わかりました。ミトもいうとおりカーンが指をくわえて何もしないはずがないわ」
「くれぐれも用心してください。この作戦で八組目の約一万基の時空間移動装置が無傷で残っています」
「巨大土偶が八体だと思って用意していた時空間移動装置のことですね」
「そうです。いっしょに完成コロニーに時空間移動してカーンの攻撃に備えてください」
「ミト!あなたという人は何と……」
「いずれにしても移動先の完成コロニーは丸腰に近い……」
キャミがミトの言葉を遮る。
「カーンが全面攻撃を仕掛けてきたら、一万基ぐらいの時空間移動装置では防御できません。それよりこの作戦が終了するまでミトがその時空間移動装置を駆使してください。そして私のもとに元気な姿を見せてください」
「それには及びません」
ミトがモニターに映る静かな湖面を眺めながらマイクを置く。続くキャミの声を無視して目を閉じる。
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「司令官!」
ミトが目を開くとモニターが黄色に輝いている。斜めに倒していた座席を元に戻してその映像をズームアップする。
――津波にのみこまれた巨大土偶のチリはどうやって集まって復元したのだろうか
ミトは作戦室で見た津波の光景を思い出す。
――津波の影響で復元するのにほぼ三日かかった。この静かな湖なら!
ミトが大声で命令する。
「拡散バズーカレーザー砲の準備にかかれ!」
そしてもう一度モニターを注意深く見つめる。空中で停止した五十基ほどの時空間移動装置のカメラが様々な角度から湖を映しだす。雨の中でボーッとした黄色い輝きが六か所見える。第一次攻撃で破壊した巨大土偶の数と同じだ。
「あの真上に移動しろ」
操縦士がミトの命令を実行する。
「できるだけ湖面に近づけ」
黄色い輝きの中に黒っぽいものがボンヤリと見える。
「着水しろ」
ミトの時空間移動装置が湖に着水するとまわりに十基ほどの時空間移動装置が集まる。ドア
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が跳ねあげられ、雨を受けながらミト自ら拡散バズーカレーザー砲を肩に載せて構える。ほかの時空間移動装置のドアも次々と跳ねあげられて拡散バズーカレーザー砲を肩に担いだ兵士の姿が見える。
ミトが手を挙げる。至近距離から発射された紺色の光線が復元中の黒い塊に到達すると飛び散って白濁色に変わり黒い塊を包みこむような光の玉となる。そして復元しかける巨大土偶が粉々になって湖に溶けるように消滅する。ほかの時空間移動装置も黄色い輝きに近づくと、同じように復元中の巨大土偶を攻撃する。
「用心しろ」
湖の監視が強化される。そのときミトに心地の悪い報告が入る。
「拡散バズーカレーザー砲のエネルギーカートリッジが底をつきました」
同じ報告が続けて何件かミトに伝えられる。
「エネルギーカートリッジの在庫を調べろ」
「在庫はありません。すべて我々が持ちだしています」
「そうだった。もう少しの辛抱だ!頑張ってくれ」
ミトは自分といっしょにいる兵士が所持するエネルギーカートリッジの数を確認する。
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