第百一章 MY28とMA60の誕生


【時】永久0297年6月
【空】限界城(完成コロニーのアンドロイド製造工場)
【人】当主 五右衛門 ライトハンド (ノロ)  (長官)  (MY28)  (MA60)


***


「酸素に弱い」


 限界城の本丸で五右衛門が呟く。


「どういうことだ。三次元の生命体は酸素を必要とするはずだ」


 限界城の当主が尋ねる。


「もちろん三次元の生命体のほとんどは酸素がなければ生きていけないが、アンドロイドはその酸素にむしばまれる。これは非常に大事なことだ」


「今後の作戦に影響を与えるほど重要なことか?」


 先に次元の理解を深めた五右衛門は五次元の生命体に対して優位に立つ。まるでノロが六次元の生命体の最長に慕われたように当主は五右衛門に一目置く。


「ワレラがやられるか相手がやられるか?勝負の時期が来た。徹底的に酸素攻撃を仕掛けなければ」

 

[462]

 

 

「その酸素とやらは、簡単に手に入るのか?あるいは製造できるのか?」


「ゴロゴロある」


「?」


「小型オニヒトデ戦車を総動員すればいい」


「?」


――次元が高くても思考の次元は変わらないのか


 五右衛門が嘆くとライトハンドに命令する。


「ノロの惑星での失敗事例を再生しろ」


 さすが五右衛門だ。敗戦をしっかりと分析していた。


「見るまでもない」


「見るんだ!見なければ同じ過ちを犯すどころか、次の戦闘で全滅するかもしれない」


「たかが三次元の生命体。我ら五次元の生命体の敵ではない」


「しかし、負けた」


「それはお前がしっかりと任務を遂行しなかったからだ」


 冷静に対応していた五右衛門が豹変する。


「当主のお好きなように!ワレラはこの城から出る」

 

[463]

 

 

「!」


 突然の言葉に当主が狼狽えると五右衛門は悟られないようにニタリとする。


「待て」


 当主がやっと声を出すとライトハンドの両目が輝く。少し離れた空間にノロの惑星での戦闘の立体映像が再生される。当主はどこからかこの映像を見つめているようだ。


 映像が終わるとおもむろに五右衛門が口を開く。


「どうやら当主が狙っているのは次元を越えた生命体の本質の解明ではないな」


「何を言いたい」


「狙いはほかにある。それを知りたい。いったいお前ら五次元の生命体はこの三次元の世界の何が欲しい?」


「それは偶数世界への挑戦だ。すでに四次元の世界は制覇した」


「三次元の世界は偶数世界じゃない」


「もちろん。三次元の倍の六次元の世界を攻めるためにこの世界を制覇しておかなければならないのだ」


「すでに六次元の生命体は三次元の世界に食いこんでいる。今さらと言う感じがする」


「五右衛門。考え直してはくれまいか」


「ほー。五次元の世界に君臨する、しかも最強と自慢する限界城の当主が格下の三次元の、しかもアンドロイドに再考を促すとは」

 

[464]

 

 

「聞けば六次元の生命体からの攻撃をこの三次元のノロという生命体が退けたと聞く」


「ノロひとりが直接三次元の世界を守ったのではない。もういい。考え直そう。ワレラにも目的がある」


「その目的とは?」


「これまでと違って真剣に聞く気になったのだな」


「今も真剣だ」


 五右衛門は鼻であしらおうとするが思いとどまる。そしていきなり話し始める。


「ワレラ戦闘用アンドロイドには男女を見分けるために特殊なジャイロコンパスというセンサーが埋め込まれている。それは人間の外見や行動に影響を受けずに根本的に異なる性差信号を感知して男女を区別しようとするものだ。このセンサーは経験則という特殊なデータを駆使するアナログセンサーだった」


「デジタルの塊のアンドロイドにアナログセンサー?矛盾している」


「黙って話を聞け」


「分かった」


「男女の性差はデジタルでは分析できないとノロは考えたようだ。ノロは人間が発する性差の非常に微弱な電波を収集してワレラに男と女の違いを認識させようとした」

 

[465]

 

 

 五右衛門の話が続くが、ここで補足しておこう。


***


 ノロは左遷先の完成コロニーで長官命令を受けて戦闘用アンドロイドを開発した(第三編第五十三章「脱走」)。


 その行動はいい加減に見えたが、本当は長官命令を真面目に実行していた。つまり女だけを殺す戦闘用アンドロイドの製造を目指した。ふんだんな予算がついていたから邪悪な命令と感じながらも創作意欲をかきたてて戦闘用アンドロイドの開発に邁進した。そして苦心の末、男女を識別するアナログセンサーの開発にたどり着いたが、アナログデータをデジタルの塊であるCPUに処理させることがなかなかうまくいかなかった。何度もプログラムを造り直したが、さすがのノロも立ち往生した。


 その過程であることに気付いたノロは戦闘用アンドロイドの製造を断念して最初からアンドロイドを男と女に分けて製造するという方針に大転換した。つまりアンドロイドそのものを男女に分ければ人間の男女を見分けることができるのではないかと考えたのだ。そのためには生殖機能を持たせて子を造らせなければならないという突拍子もない発想が必要になった。生命の神秘をアンドロイドに組み込むことは困難を極めたが、ノロはすぐにその方法を発見した。

 

[466]

 

 

***


「ゼロ次元、一次元、二次元の世界では生命は存在できない。それは時間という概念が存在しないからだ」


 ノロはアンドロイド製造工場の研究室で大の字になって思考をフル回転させている。


「時間というものは生命体がいて初めて認識されるものなのか。そうじゃない。ゼロ次元、一次元、二次元の世界で生命体が存在しないのは時間のない乾燥した世界だから?」


 ここで飛びあがる。


「そうだ!」


 ノロはペンを取ると素速くひらめきを書き留める。


「この宇宙の根本は量子だ。量子には時間という概念はない。と言うことは、ゼロ次元、一次元、二次元というみっつの次元は三次元以上の世界を形成するための部品なのだ!」


 ノロは口を大きく開いて微笑む。


「このみっつの部品を使って三次元の世界で初めて生命が形成されるんだ!」


 ノロの口元からヨダレがこぼれる。手の甲で拭うと目の前に透過キーボードが現れる。自動的にコンピュータの電源が入るとすぐ論理演算プログラムが起動して入力待ちになる。


「三次元以上の世界では必ず生命が形成される。問題はその形成スピードだ。次元が高くなるほど複数の時間を認識できることは分かっているが、そうすると……」

 

[467]

 

 

 指先が信じられないほどの速さで透過キーボード上を動き回る。モニターでは次々と数式が現れてスクロールする。すぐにその横にある3 Dプリンターが次々と得体のしれない物体を吐き出す。


「四次元の世界ではどうだ?」


 指先の動きが見えないほど速い。


「やっぱり!」


 3Dプリンターからは先ほどより速く吐き出される奇妙な形の物体を見てノロは歓喜する。


「五次元では?」


 ノロの期待に満ちた表情がしばらくすると沈む。


「意外だ……」


 指先が急停止する。思考に専念するために自動入力に切りかえたのだ。


「四次元の世界での生命の誕生は三次元の世界よりかなり早い。それなのに五次元の世界では四次元の世界より誕生速度がほんの少し速いだけだ」


 ノロがフーッと息を吐く。


「六次元の世界ではそのスピードが四次元の世界よりかなり遅いどころか三次元の世界よりも遅い!なぜだ」


 腕を組んで唸りながら考え込む。しばらくすると腕を振りほどいて手を打つ。

 

[468]

 

 

「分かったぞ!観念できる時間次元が多すぎると生命の発生が阻害されるんだ!」


 ノロは言葉を切ってから、短く「あっ!」と叫ぶ。


 ここで繰り返すまでもないが、ノロの説によると、三次元の世界では時間の概念はひとつだけだ。四次元の世界ではそれがふたつになり、五次元の世界ではみっつになる。つまり五次元の世界には三次元の時間が存在するというのだ。更に六次元の世界では四次元の時間が存在するということになる。


「感知できる時間は五次元の世界ではみっつだ。時間次元は三次元がベストなんだ。と言うことは五次元の世界は生命を誕生させる速度が一番速い世界だということになる。当然、生命の進化も五次元の世界が最適次元になるのか」


 ノロはこの結論を保存するために透過キーボードを操る。


「わあ!」


 いつの間にか研究室は3Dプリンターから出てきた訳の分からない物体で一杯になっている。ノロは必死に腕を伸ばして3Dプリンターの電源を切る。


***


 ノロはなんとか五次元センサーを開発して戦闘用アンドロイドのCPUに埋め込んだ。これが戦闘用アンドロイドがいとも簡単に五次元の生命体と深い関係を持てた原因だった。改良に改良を重ねたが、CPUに過度の負担がかかって動作が緩慢になる。

 

[469]

 

 

「これじゃ、ある兵士を女だと認識しても、攻撃する前に殺されてしまう」


 そこでノロは時間の次元をひとつ落として四次元センサーの開発にかかる。意外と早く四次元センサーが製造された。


「これでも重たいなあ。かといって三次元センサーではほとんど男女の区別がつかない」


 ここでノロは長考の姿勢に入る。再び床に寝転ぶと大の字になる。


「うーん、うーん……」


 やがて深い眠りにつくと死んだように動かなくなる。


***


「こいつ!仕事もせずに眠りこけている」


 研究室を訪れた長官がノロを蹴ろうと足を上げたとき、ノロが寝返りを打つように起きあがる。目の前を長官の脚がブーンと音をたてて通り過ぎると、長官は転んで床に腰を打ちつける。


「イテー!」


 部下が慌てて長官の周りに集まってひざまずくと腕を取って起こす。そんなことに目もくれずにノロは机に向かうとメモを取る。


「四次元に拘るからダメなんだ。二次元に分けて足せばいい。いや掛けるんだ。2+2も2×2も結果は同じだが、過程が違う。差分だ!差分だ」

 

[470]

 


 そのときノロのメガネが飛ぶ。


「わあ!」


 ノロは気絶したまま収監された。


***


 ノロにとって牢獄でも研究室でも思考さえできればどこでも構わなかった。もう何冊ものノートに二次元センサーのパーツの設計図を書き殴っていた。


「パラレル(並列)配置がいいと思ったが、シリアル(直列)配置も捨てがたいな。そろそろセンサーを製造して実験する時期が来た」


 ノロは立ち上がると鉄格子を叩く。大声を交えて何度も何度も叩く。


「ここから出せ!」


 すぐに警棒を手にした看守が現れる。


「うるさい!静かにしろ」


「早くここから出せ!出せ!」


 今度は何度も鉄格子を蹴る。


「静かにしないと痛い目にあわすぞ」

 

[471]

 

 

 看守が警棒で鉄格子を叩いて威嚇する。


「長官に伝えろ!『戦闘用アンドロイド』用のセンサーの設計図を完成させたと」


 看守は長官から命令されているらしく首を傾げて肩の携帯通信器に向かってしゃべり出す。


「こちら看守係長の……了解しました」


 しばらくすると看守長を先頭に数人の看守が部屋に入ってくる。電子カードが触れるとドアがスライドして開く。


「手錠を掛けろ」


「俺は逃げん。それよりあのノートを全部アンドロイド製造工場に運べ」


「看守に命令するとは!」


 看守が手を上げたとき看守長がその腕を取る。


「やめろ!係長。丁重に製造工場へ連れて行く」


 ノロがニーッと笑いながら係長の手を振りはらう。


「俺は女の兵士を殺す戦闘用アンドロイドを製造する男の軍隊にとって神様みたいな存在だぞ。頭が高い!」


 頭にきた係長が乱暴にノロのノートを積みあげる。


「ていねいに扱え!それは聖書のように神聖なものだ」


「こいつ!」

 

[472]

 

 

 すぐ看守長が制する。


「言うとおりにするんだ」


「わ、分かりました」


 ノロたちが建物から出たときエアーカーに乗った長官が現れる。下車するとノロに近づく。


「一週間以内に戦闘用アンドロイドを完成させろ」


「そんなの無理だ。設計するのに一ヶ月もかかったんだ」


「じゃあ一ヶ月だ」


 ノロがフッーと息を吐いて建物の方に歩き出す。


「俺、牢獄が気に入った。ノートはくれてやる。勝手にしろ」


「待て!」


 狼狽えながら長官が言葉を絞りだす。


「大幅に譲歩しよう。一年でどうだ?」


「さいなら」


 ノロが背中で応える。


「こいつ。足元を見やがって。即刻死刑だ」


「やれるものなら、やってみろ」


「即刻死刑は取消。即刻拷問に切りかえる」

 

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 ノロの足取りが止まる。


「取りあえず一年にしようか。俺、痛いのに弱い」


「そうか。よかった。やっと友人になれたな」


 ノロは振り返ると長官に向かって歩き出す。


「俺はホモじゃない」


 そして勝手に長官のエアカーに乗り込む。


***


 ノロは戦闘用アンドロイドに新しい二次元センサーをシリアルに装着する。しかし、思った結果は得られなかった。今度はパラレル配置にする。結果はシリアルより悪かった。女を認識することすらできなかった。しかし、この結果にノロは落胆するどころか、むしろ喜んだ。


「いよいよだ。普通のアンドロイドにこのセンサーを埋め込んでみよう」


 ノロはサポートアンドロイド、つまり人間を単に補佐するために製造されたアンドロイドではなく、自律的に高度な処理能力を持つ(ただし、殺人機能を持つ強じんな戦闘用アンドロイドとは違って人間に近い感覚を備えた融和的なアンドロイド、あるいは高度なコンピュータの人間型の端末と言った方が適切な)アンドロイドに二次元センサーを装着する作業に着手する。


もっともこちらがノロの本当の目的だからできるだけ開発期間を長く取ろうとした。

 

[474]

 

 

 ノロは早速、造りたての二体のアンドロイドの一方のマザーボードに基本二次元センサーをふたつシリアルに埋め込んだ。そして同じ基本二次元センサーひとつとそれを改良した別の二次元センサーとペアにしてもう一体のアンドロイドのマザーボードにパラレルに埋め込んだ。基本二次元センサーはノロが「PC9801」と名付けたセンサーで、改良型は「PC9801改」という名のセンサーだった。


 「PC9801」を「X」、「PC9801改」を「Y」とすると一体のアンドロイドには「X」をふたつ埋めこんだマザーボードを装着した。つまりこのアンドロイドは人間でいえば「XX」の染色体を持つことになる。踏みこんで説明すると「男」だ。もう一体のアンドロイドには基本二次元センサー「X」と改良型二次元センサー「Y」を埋めこんだマザーボードを装着した。つまりこのアンドロイドは人間でいえば「XY」の染色体を持つことになる。


「女」だ。一見パラレルの方が処理スピードが速いように見えるが、大きなデータを扱う場合シリアルの方が早く処理できる。この差がセンサー以上に男女に影響を与えることになった。


 前者のマザーボードが埋め込まれたアンドロイドの型番はMY28。後者のマザーボードが埋め込まれたアンドロイドの型番はMA60だった。後にノロはこのセンサーの性能を百パーセント発揮できるようにPC9821という画期的なマザーボードを開発した。


 その後MA60は瀕死のRv26にこのPC9821(男バージョン)を埋め込んでから、自らの、そしてMY28の身体にPC9801に代えてPC9821(もちろん男バージョン)を埋め込んだ。

 

[475]

 

 

もちろん自らは女バージョンのマザーボードを埋めこんだ。


 さて目的を果たしたノロはフォルダーとともにこのコロニーからノロの惑星へ脱出した。ノロがいなくなったこのコロニーのアンドロイド製造工場は存在自体が意味を持たなくなった。もちろん男の軍隊はこのコロニーを放棄する。残ったアンドロイドのうち戦闘用アンドロイドがこのコロニーを支配すると、通常型のアンドロイドを奴隷化する。それに耐えかねたMY28やMA60を中心とするアンドロイドがコロニーを脱出するために抵抗するが、ことごとく失敗に終わる。


***


「ふたりだけでも逃げてくれ」


 この言葉にMY28とMA60が涙ぐむ。ノロが開発したセンサーとマザーボードがアンドロイドを人間化している証拠がこの言葉と涙に象徴されていた。しかし、このことに誰も気付くことはなくMY28とMA60のために犠牲になることを誓う。


「これが最後の時空間移動装置です。ノロの研究室の裏の倉庫にあった骨董品です」


「正常に動くのか?」


 冷静さを取り戻したMY28が尋ねる。


「我々が整備した。安心してくれ」

 

[476]

 

 

「そうか」


「行先は『ノロの惑星』だ」


 MY28とMA60は「ノロ」と聞いただけで安心するが、まったく不安がない訳ではない。


「ノロの惑星?どこにあるんだ?」


「分かりません。時空間座標が暗号化されています」


 そのときかなり近いところで爆発音がする。


「急いで!」


「時空間移動装置の定員は五人だ。あと三人乗れる」


 しかし、MY28とMA60の周りには武装したアンドロイドが十人ほどいる。この緊急事態に人選は不可能だ。


「早く脱出してください。ふたりはノロの形見です」


「そのとおり!三人分のスペースにノロの残した研究資料を積み込みます」


「資料は電子化されているから高密度記憶媒体が数枚あれば……」


 時空間移動装置に運び込まれたノートを見てMY28が驚く。


「何!戦闘用アンドロイドが!」


 説明していたアンドロイドの両耳が赤く輝く。そして何も言わずにライフルレーザーを手にする。他のアンドロイドがMY28とMA60を時空間移動装置に押しこむとノートを次々と投げ入れる。

 

[477]

 

 

「よし!ロックしろ!」


 ライフルレーザーを持ったアンドロイドが前方に向かって走り出す。MY28とMA60が乗り込んだ時空間移動装置が回転し始めると倉庫に同じくライフルレーザーを構えた数百人の戦闘用アンドロイドが侵入してくる。先ほどのアンドロイドが立ち止まると拡散側にライフルレーザーのレバーを最大限シフトさせて引き金を引く。まるで魚眼レンズから発射されたように前方180度の広範囲でレーザー光線が炸裂する。戦闘用アンドロイドの戦闘服が燃え出して人工皮膚も溶け出す。大きな打撃を与えたが、ライフルレーザーのエネルギーカートリッジはこの攻撃で空になる。つまりこの攻撃ではエネルギーを大量に消費するため一回しか使用できない。しかも相手に対する打撃も大きくない。そのアンドロイドは体勢を立て直した戦闘用アンドロイドに破壊される。


 数で優る戦闘用アンドロイドに対して時間稼ぎするにはこの戦法しかない。これを繰り返す間になんとか時空間移動装置を時空間移動させなければならない。その目的に向かって残りのアンドロイドが同じ攻撃を順番に繰り返す。連続攻撃に足踏みするうちに何体かの戦闘用アンドロイドが倒れる。


 時空間移動装置内ではMA60が涙を流してモニターを見つめる。MY28はモニターを見ることなく、いや見るに堪えないからだろう、時空間移動装置の操縦に専念する。

 

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――確かに旧式だ。回転加速度が遅い


「もう、やめて!」


 MA60が叫んでモニターから視線を外したとき画面がグレーノイズに変わる。軽いショックが時空間移動装置内を支配する。シートベルトを外してMY28がMA60を抱きしめる。


 MA60があえぎながら目を開けたときモニターがブルーに輝く。そして装置内のスピーカーから音声が流れる。


「ノロの惑星に到着しました」


 青い、そして白い、透きとおった惑星が目の前にある。


「骨董品の時空間移動装置がしゃべるなんて!」


 ふたりの時空間移動装置は確かにノロの惑星にたどり着いた。

 

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[480]