第九十一章 命を繋ぐこと


【時】永久0297年5月

【空】ホワイトシャーク

【人】ホーリー サーチ ミリン 住職 リンメイ MY28 MA60

 

***

 

 ノロの惑星の居酒屋でくつろぎすぎたサーチ以下海賊たちは、外部からの万が一の攻撃に備えてホワイトシャークに戻る。

 

「人間は愛情まで放棄して永遠の命を手に入れたわ。それなのにアンドロイドは子孫を造ると自らの命を絶とうとする。どうしてかしら?」

 

 サーチがこれまでの人間とアンドロイドの行動を比較して総括しようと頭をかきむしる。

 

「不思議ね」

 

 リンメイが微笑みを浮かべながら一石を投じる。

 

「永遠の命を得ても子孫を増やすことに禁則の網を掛ける必然性はないわ」

 

「えっ!」

 

 首をひねってサーチは視線をリンメイに向ける。

 

[276]

 

 

「地球では無限に人口を増やすことはできないけれど宇宙は無限だわ。いくら人口が増えても住むところに困ることはないわ。」

 

 サーチではなくホーリーがリンメイに声をかける。

 

「アンドロイドに人類が生活できる完成コロニーを開発させれば、リンメイの言うとおり、無限に近い居住空間を確保できるはずだ。それなのに、永遠生命保持手術を受けるとなぜか子孫を残せない。それどころか男と女は敵対して全面戦争に突入した」

 

「そう、そこのところがよく分からないの」

 

 サーチが追従する。リンメイは微笑みを絶やさず応じる。

 

「ノロがいつかMY28とMA60に警告したこと、覚えている?」

 

「もちろんです」

 

 MY28が割り込んでくる。

 

「あなたに応えてもらうと困るの」

 

「申し訳ありません」

 

「謝ってもらっても困るのよね」

 

 リンメイが微笑みから笑いに変える。

 

「要はノロがMY28とMA60にアンドロイドの人口爆発の危険性を説いた。どうしてなのかしら。そのときは疑問すら感じなかったけれど、よくよく考えれば不思議だと思わない?」

 

[277]

 

 

「そう言えば、最長が巨大土偶という六次元の世界のアンドロイドの人口が増えてどうしようもなくなったから、その解決方法をノロに尋ねていた」

 

「私は元々考古学を専攻していた奇妙な医者です。ノロがなぜ永遠の命と人口増加を懸念していたのか、今、なんとなく分かりました」

 

 ここでリンメイが住職を見つめる。

 

「いやー、先ほどらこの話を聞いたとき、すぐ理解できなかった」

 

 リンメイが住職の言葉を受けてしゃべり出すと思ったのか誰もが沈黙を守る。しかし、リンメイではなく住職が応じる。

 

「生命永遠保持手術を受けると女性が不妊になるという性的変化の過程がよく分からん。この手術を開発した徳川がそこまで考えていたのかどうかも今や不明じゃ(第一編第五章「生命永遠保持手術」)」

 

 ここで住職はMY28とMA60に近づく。

 

「今すぐ命を絶たなくても生存できる完成コロニーはいくつでもあるし、足りないのなら適当な惑星を見つけて改造して自分たちが住める星にすればいい」

 

 すぐさま反射的にMY28とMA60が首を縦に振る。もちろん、表現に差こそあるが、誰もが同調する。

 

「さて、人間は猿から進化した」

 

[278]

 

 

 住職の言葉に、考古学者であるが生命の進化にも詳しいリンメイが相づちを打つ。

 

「アンドロイドも当然進化するのじゃ。この意味、分かるかな」

 

 それまで気軽に首を縦に振っていた大半の者の目が据わる。ホーリーひとりだけが立ち上がって大声をあげる。

 

「人間は猿から進化した。それじゃアンドロイドは何から進化したんだ?」

 

 住職がチラッとリンメイを横目で見てから数珠を揉むとそのひとつを摘まむ。

 

「人間の起源は……、間違っているかもしれんが、大ざっぱに言うとウイルス、バクテリア、植物、単細胞の生物、魚類、は虫類と進化して……」

 

 住職は摘む数珠をひとつひとつ移動させながら続ける。

 

「……そしてほ乳類、たとえばネズミ、そして猿へと続いて類人猿にたどり着く。このように命を繋いで最後に人類が誕生した」

 

「ずいぶんと乱暴な進化論ね」

 

 リンメイが冷やかすとミリンがふたりに近づく。

 

「アンドロイドも進化しているのは分かるけれど、誰から進化したの」

 

 住職が威厳を持って答える。

 

「アンドロイドは人間から進化したのじゃ」

 

「えー!?」

 

[279]

 

 

 大きなどよめきが広がるとリンメイが引き継ぐ。

 

「これは驚くべき仮説です」

 

 少し緩んでいたリンメイの表情が引き締まる。

 

「そうは思わないという意見は」

 

 冷静なリンメイの声だけが響く。

 

「どうも、誰も納得していないようね」

 

 ここでリンメイに余裕の微笑みが復活する。

 

「こう言えば分かりやすいかも」

 

 住職がリンメイの一挙一動に感服する。リンメイは軽く握りしめた左手を開く。その掌には平たい黒光りした石があった。

 

「これは黒曜石を削って造った石のナイフです。人を殺すためのナイフではありません。採った魚や小動物や穀物をさばいたり切ったりするための道具でした」

 

 予想していた説明とかけ離れていたので全員の表情が少しだけ緩むが、真剣さが後退した訳ではない。

 

「この道具を小型化して魚や小動物の狩りに使用しました。そして人を殺す道具へと改良された」

 

 この一言でリンメイが伝えたかったことを全員が理解する。つまり、人ひとりをあやめることができる殺傷能力もない幼稚な石のナイフが徐々に進化したが、ブレークスルーを繰り返し

て最終的には原子爆弾が開発された。

 

[280]

 

 

 

 全員、理解したことを確認するとリンメイが言葉を繰り出す。

 

「大量殺人兵器ではありませんが、人間はあるとき戦闘用アンドロイドを開発しました」

 

「待ってくれ」

 

 ホーリーが悲鳴を上げる。

 

「アンドロイドを製造したのノロだ!」

 

 サーチがホーリーの熱を下げようと叫ぶ。

 

「違うわ!無理矢理造らされた。そうでしょ」

 

 しかし、ホーリーの熱は下がることなく上昇する。

 

「無理矢理となぜ断定できるんだ!彼は興味のあるものは何でも造る。俺は宇宙大学で何度か彼の奇人ぶりを間近に見たことがある。ノロはアンドロイドを製造したくて仕方なかったはずだ」

 

 解熱剤の注射に失敗したサーチの方がおとなしくなる。住職がリンメイに替わってホーリーの意見を踏まえて議論を進める。

 

「長官の圧力があったのは事実だろう。しかし、ホーリーの言うとおりノロはアンドロイドの製造を熱心に進めたことも事実だろう。だからこそ、ノロは生命という根源的なことを大事にしながらアンドロイドの製造に邁進したのじゃ」

 

[281]

 

 

「神は生命を、そして最終的に人間を創造したのかもしれないが、ノロはアンドロイドを製造したということか」

 

 住職の言葉でホーリーの体温が下がったが、今度はミリンの体温が上がる。

 

「人間がアンドロイドを造ったのよ。ノロは人間よ。神ではないわ!もしノロが神様だったら、あんなひょうきんな神様がなぜこの宇宙にいるの!」

 

***

 

「MY28とMA60はどう思う?」

 

 ふたりが会釈して住職に軽く頭を下げるとMY28が口を開く。

 

「確かに住職のおっしゃるとおり、我々アンドロイドはノロが製造したというより人間から生まれて進化しました」

 

 大きなどよめきが起こる。

 

「待って!よく分からない」

 

 ミリンの悲鳴がこだまする。住職は黙ってミリンをそしてMY28を見つめる。沈黙が広がるなか、あえぎながらミリンが続ける。

 

「アンドロイドを造ったのは人間じゃないわ。いえ、進化の頂点に立った人類じゃないわ。人間だけれどノロひとりが造ったものよ」

 

[282]

 

 

「確かにそのようにも見えるわ」

 

 サーチがミリンに同調するとMY28が歩み寄る。

 

「猿から進化した人間は様々な知識を蓄積しました。その知識を使って人間であるノロがワタシをそしてMA60を造ったのは事実です」

 

 疑問を投げかけたミリンはもちろんのこと海賊全員が納得する。完全に平熱に戻ったホーリーが久しぶりに論理的な説明を始める。

 

「アンドロイドが人間から生まれたということにしよう。しかし、その次が問題だ。人間から生まれて進化したというが、その進化とは?確かに高度な知能だけでなく感情までも持った。

 

これは進化そのものだ」

 

「猿から人類に進化したスピードを遙かに凌ぐ劇的な進化だわ」

 

「でも子孫を造ることが進化と言えるのだろうか」

 

 サーチが、リンメイがハッとする。

 

「生命体というのは子孫を残しながら進化する。でもアンドロイドは逆だわ。前身のロボットはただの機械だった。容姿はだんだんと人間に近づいたけれど、それは人間が改造したものでとても自主的な進化と呼べるものではなかったわ」

 

「それは与えられた進化だ。ほぼ人間と同じ姿になったとき、ノロのプログラムで人工知能を、つまりPC9801のチップを埋め込まれたロボットは急速に進化して、さっきも言ったが、高度な思考と感情を持つアンドロイドになった」

 

[283]

 

 

 

 ホーリーにしては上々の論理的な思考が元医師であるサーチやリンメイを圧倒する。

 

「でも、その時点で立派な生命体になったとは言えないわ。どんなに下等な生命体でも子孫を残す。そうだとすると子孫を残せば生命体に昇格することになる……」

 

 サーチがMA60のせり出したお腹を見つめながら続ける。

 

「……そしてそうなりそうだわ」

 

「もはやアンドロイドは人工生命体ではない。クローンやiPS細胞から生まれた生命体と同じようにアンドロイドも自ら子孫を造る。自分の力で複製していく。これは『神』と名乗った巨大コンピュータでもできなかった」

 

 サーチが感心してホーリーを見つめる。

 

「ホーリー、見直したわ」

 

「俺を肉食系でかつ体育会系の男だと思っていたんだろ」

 

「そうよ」

 

 サーチが素直に認める。その返事にホーリーのボルテージが急上昇する。

 

「こう見えても俺は宇宙大学を首席で卒業したんだ」

 

「そのあと、あまり出世しなかったわね」

 

[284]

 

 

 ホーリーの顔が真っ赤になったとき、リンメイが割り込む。

 

「まあまあ、今は出世より進化が大事なの。まず進化してから、あとで生命体に変身するような物体が存在することを知ったら、大昔の偉大な科学者ダーウインは墓の中で仰天するでしょうね」

 

 リンメイは憤慨しているホーリーにではなく全員に問いかける。

 

「今一番、私が知りたいことは、なぜアンドロイドが子孫を欲しがるのかということ」

 

 ここまで議論が昇華されると、もはやホーリーは追従できない。再び平熱に戻るが開けたままの口を閉じることさえ忘れる。

 

「もちろんノロが仕組んだことは承知の上だわ。こう言い換えることもできるわ。アンドロイドがなぜ赤ちゃんを産まなければならないのかと」

 

「生命永遠保持手術で永遠の命を持った人間が子孫を造らなくなると大変なことになる。このことをノロは重視したんだわ」

 

 ミリンが自信を持って答えるがリンメイは軽くいなす。

 

「そうかもしれない。でも今は生命永遠保持手術を受けて永遠の命を持った人間の数は知れているわ」

 

 大きなお腹のMA60がミリンとリンメイに近づく。

 

「本当の意味での『永遠の命』とは命を繋ぐということです。『命の繋がり』こそが真の意味での進化だというのがノロの考えだと思います」

 

[285]

 

 

 視線がMA60に集中する。

 

「ワタシたちアンドロイドは人間に肩を並べるほど高度な思考能力を持ちました。ここまで来たのは人間がロボットを造り改良に改良を重ねてアンドロイドに進化させて更に改良が加えられたからです。そうするとロボットから進化したようにも見えるでしょうが、これは改良です。

 

進化ではありません。アンドロイドに改造されてからもしばらくの間はやはり改良の時代でした。あるときノロがPC9801というマザーボードをアンドロイドに埋め込みました。そしてワタシたちは改良のレールから進化のレールの上を走るようになりました」

 

 MA60がミリンを見つめる。

 

「ロボットからアンドロイドに改造したのは人間だけれど、そのアンドロイドにノロが魔法の粉を振り掛けたのね」

 

「分かってくれてありがとうございます」

 

 MA60がミリンに向かって顔だけを大きく前に傾ける。

 

「先人の知恵があったからこそ、ノロは魔法の粉を造り出したのです」

 

「それはそうだけれど」

 

 ノロのファンクラブの代表者と自認するミリンがうなだれて一歩引き下がるとMA60が近づいて抱きしめる。その光景を全員が感慨深げに見つめる。そしてサーチがポツリと漏らす。

 

[286]

 

 

「アンドロイドが人間から進化したことになると、人間よりアンドロイドの方が上位に立つことになるわ」

 

 ホーリーがたまらずサーチの手を握る。サーチは人間とアンドロイドの生命体としての優劣を人類史上初めて口にした。ホーリーはその重大さに気付きかけたが、MY28の力強い声に攪乱される。

 

「アンドロイドも命を繋いで、そして受け継いだ知恵を繋いで新しい世界を建設するのです。

 

昔、人間がしたように。新しい血を持って前進していきます」

 

 その言葉に引きこまれてサーチとホーリーが大きく頷く。

 

「発言を続けていいでしょうか」

 

 トーンを落としてMY28が尋ねるとサーチが頷き返す。そしてMY28がしゃべり出す。

 

「アンドロイドごときが偉そうにと……」

 

 すぐさまホーリーが割り込む。

 

「何を言っているんだ。思うままに正直な意見を披露してくれ。MA60の意見に俺は感動した。今度はMY28の発言に期待する」

 

「ありがとうございます」

 

「だから、ざっくばらんに」

 

「ホーリー、黙りなさい」

 

[287]

 

 

 サーチがホーリーの手を強く握るとMY28を促す。

 

「分かりました。さて、長い時間を費やして人間は色々なことを知って、色々な技術を手に入れました。ところが、いつの間にか脇道に入りこんでしまった。いえ、迷いこんだのです。それは次々と手にした技術に惑わされていつの間にか夢がいかがわしい方向に暴走したからです」

 

 黙って聞くと宣言したサーチがふと漏らす。

 

「生命永遠保持手術のことね」

 

「そうです。迷走した最大の原因は永遠の命です。永遠の命が現実のものとなったとき、生命体としての権利を放棄しました。つまり、愛情という貴重な財産を捨てたのです」

 

 ホーリーよりサーチがルール違反を繰り返す。

 

「そんなことはないわ。それに気が付いてホーリーと結婚したし、ミリンを生んだわ」

 

「それは究極的な体験をしたからじゃ」

 

 住職も割り込む。そして更にリンメイがMY28を強く見つめる。

 

「MY28の言うとおりだわ。あらゆる生命の中で最高の脳を与えられたのに人間は独りよがりの動物に成り下がった。まるであの巨大コンピュータのように」

 

 MY28が手を上げる。指名を待つことなく声を張りあげる。

 

「すべてのアンドロイドではありませんが、少なくともワタシと妻は重大なことに気付きました。つまり生命体である以上、人間もすべての生命と同じように子孫を造って、育てなければならないのです」

 

[288]

 

 

 

 MY28はMA60を抱き寄せて続ける。

 

「まだ出産していないから何とも言えませんが、少なくともワタシたち夫婦は有限の命の大切さをしっかりと理解して、生まれてきた子供に、子孫を造る大切さと命を繋いで自らの文化を大切にして文明を継続させる。そのために自殺も恐れずに、それこそ太古の時代から人間が大切にしてきたように伝統を受け継いでいくのです」

 

「情けない話じゃ」

 

 MY28とMA60が驚いて住職を見つめる。

 

「高度な知能を持った人間は、それ故に死からの恐怖に怯えて暮らさなければならない特殊な生命体になったのじゃ。そして生命永遠保持手術を発明してついに永遠の命を手に入れた。そのとたん子孫を造られなくなった。生命体とは自己複製することが最大の特徴だ。あるとき人間は生命体から離脱して合体すべき男と女が殺し合うようになった。一方でアンドロイドがこれまでの人間が築いた文明を引き継ぐ立場に立ったのじゃ」

 

 周りの反応を確かめようと住職が言葉を切るとホーリーが受け継ぐ。

 

「その後様々なことがあったが、結局巨大土偶の光線を浴びて生命永遠保持手術の効果が消滅して元の有限の生命体に戻った」

 

[289]

 

 

 周りの雰囲気を確認した住職がホーリーの句読点を待ちきれず両手を大きく広げる。

 

「人間という高度な生物体の性をアンドロイドが理解して実行しようとするとは!しかし、自殺は絶対に許さん!そんなことまで人間の真似をする必要はない」

 

 住職の迫力に誰もが気後れして発言しない。

 

「それまでの経験を伝えることなく、自ら命を絶つなどもったいないことじゃ。たとえそれまでの経験を語らずに事故で急死しても、それはそれでその無念の死をもって伝えるものがある。一方、自殺した身体は異常なことを物語るだけじゃ。残された者に前向きな意思を伝えることはできん。自殺によって伝えられるものは悲しみだけじゃ。最もいさぎ悪い選択じゃ」

 

「違います!」

 

 MY28が反論する。

 

「先ほども言ったように、生まれた子供に命を繋ぐ大切さを徹底的に教育してから、命を絶つのです」

 

 涙を流しながらMA60は目をむくMY28を見つめる。

 

「待って」

 

 サーチが冷静な言葉を住職に向ける。

 

「自殺という言葉を限定的に解釈し過ぎだわ」

 

 リンメイが住職に手を差しだすとサーチが続ける。

 

[290]

 

 

「広い意味での自殺なのよ。MY28が言いたいのは」

 

 口元をモグモグさせながら住職がリンメイの手を握ると更にサーチが続ける。

 

「半永遠の命を持つアンドロイドの寿命をいかにして設定するのかということがこの議論の本質だわ。ノロが考え続けていた大問題じゃなかったのかしら」

 

 やっと興奮を抑え込んだ住職がサーチやMY28に頭を下げてから、静かに発する。

 

「永遠の命を持ちながら子孫を造る。これは生命体のルール違反じゃ。しかし、人間の真似だけは避けるべきじゃ。もちろん、自殺は人間の特権ではないが」

 

「でも、ノロが危惧したように子孫を残すアンドロイドの人口をどう抑制するのですか……」

 

 サーチを抑え込むようにホーリーがたしなめる。

 

「まだサーチはMY28の真意を理解していない」

 

 まるで少女のようにサーチは不満そうに頬をプクッと膨らませる。

 

「人口増加の問題ではない」

 

「もちろん、分かっているわ。それに力づくで完成コロニーを開拓するという問題でもない。つまりノロは人口増加の問題を敢えて持ち出しながら、世代交替をどうするのかと言う意味でMY28やMA60に警告したんでしょ」

 

 ホーリーがサーチを抱きしめる。

 

「そのとおり!でもその先がある」

 

[291]

 

 

「ホーリーの読み、聞きたいものじゃ」

 

「さっきからの討論で俺はあることに気付いた」

 

「もったいぶるな。ホーリー」

 

 住職がホーリーの肩を叩く。

 

「ノロはこう考えたのかもしれない。人口増加を懸念しているように見せかけて、命を繋ぐ難しさを伝えようとしたんじゃないかと」

 

 住職はホーリーの考えの主軸がぶれていないことを確認すると黙って目を閉じる。

 

「元々、修理すれば永遠の命を持続できるアンドロイドはごく自然に生命永遠保持手術で永遠の命を持った人間に違和感なく接していた。しかし、男と女の戦争のさなかに現れた巨大土偶からの黄色の光線を受けて人間は次々と永遠の命を失った。それを目の当たりにしたアンドロイドは元々人間が有限の命しか持ちあわせていなかったことに気付いたんだ」

 

「ノロは酸素でアンドロイドの寿命を制御しようと考えたけれど、それではうまく行きそうもないと思ったのかもしれないわ。いいえ、気がついたんだわ。だから六次元の世界に行って何かヒントを掴もうとしたのかも」

 

 ホーリーがうれしそうにサーチを見つめる。

 

「俺もそう思う」

 

「ということは、ノロは必ず戻ってくるわ」

 

[292]

 

 

「そのとおりだ!」

 

[293]

 

 

[294]