第百二十九章 火の鳥


【次元】三次元
【空】ノロの家 オルカ
【人】ノロ イリ ホーリー サーチ 住職 リンメイ フォルダー ファイル
   R v 2 6 四貫目


* * *


 ノロの家に到着した四貫目はノロに巻物を差し出す。


「その巻物ならオレも持っている」


 ノロの平然とした応答に四貫目が狼狽える。


「何本もあると価値がないなあ」


 四貫目は意を決して尋ねる。


「ノロは三太夫の子孫と聞きました」


「うん」


「知っていたのですか。三太夫に会ったことは? 」


「ない。この中に百地家の家系図がある」


 すかさずホーリーが尋ねる。


「なぜ巻物が何本もあるんだ? 」

 

[392]

 

 

「コピーされたんだ」


「まさか! 」


「誰が? 」


「何のために! 」


「こんな長いものを複写できるコピー機はどこにあるんだ? 」


 このボケた質問が最後になる。応じたのはノロではなくR v 2 6 だ。


「時空間次元複写。元々この巻物は一本しか存在しなかったはず。しかし、人の手を介したか否かを問わず時空間や次元移動を繰り返す間に複写されてその数が増えたと考えられます」


 またもや驚愕の叫びが起こる。


「なんじゃと! 」


 サーチが追従する。


「そんなこと信じられないわ」


 似たり寄ったりの声が一巡すると最後にホーリーがじっくりと声を出す。


「それじゃ、人間だってあちこちにコピーされた人間が存在してもおかしくないじゃないか。なにせ俺たち不摂生なほど時空間移動した」


 ノロがたしなめる。


「オレ達は時空間次元複写されない。生命体は本来D N A でコピーされるものだから」

 

[393]

 

 

 すぐさまサーチが反論する。


「私たち、D N A のコピーを放棄したわ! 」


 サーチが言いたかったのは、永遠の命を持った者はD N A で子孫を残すことを辞めたから巻物のようにコピーされるかも知れないということだった。


「サーチが何十人もいたら恐ろしい」


 サーチがホーリーを睨むと爆笑が起こる。雰囲気が和らぐが筋の通った説明を求める視線がノロに向かうとイリが釘を刺す。


「茶化さずにまじめに応えてね」


「いつもまじめだ」


 ノロの口が大きく開く。ここは我慢して聞くしかないとイリが腹をくくる。


「生命体という有機物はこの宇宙の重要な構成要素だ。一方この宇宙最大の構成物ブラックマターは無機物だ。有と無。ともにこの宇宙で必要だ。ところがその中間にどちらとも言えない物質がある。なぜなら無から有を造るために、つまり意思を持たない無機物から意思を持つ生命体を創造する仲介役が必要だから」


 ノロが不気味に笑うと精一杯口を横に開く。


「トリプル・テン! 」


 納得する者もいるが、首をひねる者もいる。その中でストーンヘンジでの異変を思い出したリンメイが発言する。

 

[394]

 

 

「畳一枚ほどのトリプル・テンが細かくなってぶつかり合ったとき、想像を絶するエネルギーが生まれたわ」


 ノロが補強する。


「トリプル・テンはブラックホールにも存在する」


「なんと! 」


 リンメイの横で住職が腰を抜かす。


「ビッグバンでこの宇宙が生まれたと言われている。端折って説明する。最初に水素が発生…… 元素番号の一番目の元素だ。次にヘリウムが生まれ… … と言うように数々の元素が生まれた。だが、今ある宇宙の元素を集めてもこの宇宙の四分の一もない。残りのほとんどがブラックマターだ。おかしいと思わないか」


 最後の言葉に重みがあった。


「いつブラックマターが生まれたんだろう? しかもこの宇宙を支配していると言っていいぐらいのブラックマターは宇宙が生まれたときにすでに存在していたのか」


 沈黙が支配するなかでノロの言葉が続く。


「実は当初からブラックマターは存在していた」


 突然、ノロの家の天井に浮遊透過スクリーンに何の変哲もない卵が映しだされる。

 

[395]

 

 

「これは宇宙の卵だ」


 すぐに透視した絵に代わる。真ん中には黄身があって周りに白身が漂っている。もちろん外側に薄い殻がある。まさしく卵そのものだ。


「黄身の端に白いブヨブヨしたもの、これが本当の意味での卵。外側の殻は無限に広がる特別のゴム製だと思ってくれ」


 理解を助けるために白い殻が飴色に変わる。ポインターが黄身の端の白いブヨブヨしたものをマークする。


 誰もが針の先より小さな点から瞬間的に宇宙が生まれた( ビッグバン) と思っていたから、この白いブヨブヨしたものに違和感を感じる。


「まあ、形や色はどうでもいい」


 軽く言うがこの言葉に深い意味があることが後で分かる。


「宇宙の卵は普通の卵とは全く違うが、気にしないでくれ」


 次の瞬間白いブヨブヨしたものが膨張すると黄身が割れて白身と混じり合うとやはり膨張する。殻は特別なゴム製だから割れることなく膨張して浮遊透過スクリーンを覆い尽くす。


「この急激な膨張を浮遊透過スクリーンで示すのは難しいので、超スローモーションで縮尺を大きくして示す」


 ノロが器用に3 D ポインターを操る。

 

[396]

 

 

「普通の卵なら黄身や白身を栄養にして白いブヨブヨが雛になるのだが、宇宙の卵は違う」


 ホーリーが口をもごもごさせるのを見てノロが牽制する。


「質問は受け付けない」


 スクリーン上で一旦小さく表現された白いブヨブヨしたものがいつの間にかドンドン球体となって大きくなるが、画面からはみだしそうになると縮尺制御が作用して調整される。つまりすぐ小さく表示される。その周りでは黄身と白身が混ざり合って薄いベージュ色になりながらやはり膨張する。やがて膨張する白い球とその周りの境界がよく分からなくなる。いつの間にか全体が真っ白ではなく、少しだけベージュが加わった白になる」


「元々のベージュ色の塊がブラックマターだ」


「黒じゃないぞ! 」


 規則破りのホーリーをノロが睨む。


「退場! 色や形は関係ないと言っただろ! 」


 ここで初めて卵形の殻も球体に変化していることにホーリーが気付く。臨場感はないが画面上でこの球体がますます急速に膨張していることだけは分かる。やがて小さな黒い点があちらこちらに現れる。


「恒星だ。大きな黒い点は銀河だ」


 卵を使ってこの宇宙の発生を説明したから、輝いているはずの銀河が黒に表現されているのだ。

 

[397]

 

 

ここで白黒が反転するとため息が充満する。


「白い、いや輝いて見えるのが銀河。黒い部分がブラックマターだ」


 画面では大きな球体が以前より速度を落とすが、依然として膨張し続ける。


「この宇宙の誕生とブラックマターの存在。理解できるか」


 深く頷く者もいれば口をポカーンと開けている者もいる。


* * *


「針の先よりも小さな一点から宇宙が生まれたのではないのか」


「ビッグバンは計り知れないほどのエネルギーがないと起こらない」


「私、気絶してもいいかしら」


 イリが倒れる。


「この理屈を考えたときオレは何度も気絶した」


 イリを抱き起こしながらリンメイがノロを見つめる。


「この説明がオレの限界だ」


 住職が残念そうに尋ねる。


「点ではなく卵か。誰がそんな卵を産んだのじゃ」


「宇宙鳥」

 

[398]

 

 

「うちゅうどり? 」


「ある人はその鳥を『火の鳥』と呼んだ」


「聞いたことがある! 」


 ホーリーが叫ぶ。


「名付け親もそれがどんな鳥かまでは追求できなかったようだ。もちろんオレにも分からない」


 ホーリーがノロにも限界があることを改めて感じるとノロが笑顔で慰める。


「オレは神ではないし、火の鳥を見たこともない。でも、なぜこの宇宙にブラックマターが存在するのかという理屈は掴んだ。そしてこの宇宙の原動力がブラックマターであり、ブラックマターがトリプル・テンを成分としていることも理解した。ブラックマターが生成されなければこの宇宙は存在できない」


* * *


「ブラックマターは後から生成されたものではなかったのか」


 フォルダーがため息交じりでノロの「火の鳥」理論を締めくくる。


「誰が宇宙の卵を産んだんだろう」


 質問を許可されたがホーリーの言葉に鋭さはない。


「言っただろ。火の鳥だ」

 

[399]

 

 

 何とか気絶せずに話を聞いていたイリがポツンとセリフを置く。


「『鶏が先か卵が先か』ということね」


「俺はブラックホールが鍵だと思っていた」


 ホーリーが持論を展開する。


「あらゆる物を吸い込んでしまうブラックホールの向こう側に別の宇宙があるんじゃないかと。向こう側でドンドン吐き出す。それが向こう側の世界のビッグバンじゃないかと」


「ブー。ハズレ。この宇宙のブラックホールを全部集めてもブラックマターの一パーセントにもならない。ブラックホールは恒星のなれの果てだ。もちろんすべての恒星がブラックホールになるわけではない。超巨大な恒星だけがブラックホールという勲章を手にする」


「ノロはブラックホールなど大したものではないというのか。でも、そのブラックホールに翻弄されているじゃないか」


「ブラックマターに比べての話だ。落ち着け」


 サーチがホーリーの腕を取る。


「生命体から見ればブラックホールは脅威に違いないわ。でも宇宙規模から見れば大したことはないとノロは言いたいのよ」


「違う! 俺が言いたいのはノロはトリプル・テンを手なずけているじゃないか。つまりブラックマターを。なのにブラックホールにはビビっている。何故なんだ! 」

 

[400]

 

 

 サーチが持った腕を強く握る。


「そう! そうね」


 サーチがホーリーに賛成票を投じるとイリが反論する。


「ノロはブラックマターを手なずけていないわ」


「でもトリプル・テンと友達だわ」


 サーチも譲らない。


「何とかトリプル・テンを利用しているだけよ。ブラックマターまでコントロールしてるなんて言えないわ」


 まるで女の戦いのような様相になる。しかし、ファイルやリンメイは参戦しない。ここで住職が仲裁に入る。


「わしは一度たりとノロの狼狽えた表情を見たことがなかった。しかし、今回は違う。説明してくれまいか」


 イリとサーチの論戦を聞いていたノロはそれまでと違って神妙になる。


「住職の言うとおり。ブラックホールは未知の存在だ。何とか入口を理解したが出口が分からない。でも出口はホーリーの言うような他の宇宙に繋がるものではない。かといってこの宇宙にフィードバックされているような現象は確認されていない」


「そこまで調べていたの! 」

 

[401]

 

 

 イリの驚きは全員の驚きでもあった。今やブラックマターやブラックホールのことをかなり深く理解した誰もが次の言葉を待つ。


「なぜ広大・最長にニューブラックシャークの建造を頼んだのか、分かるか」


 黙って次の言葉を待つ全員にノロは一言発する。


「ニューブラックシャークでブラックホールに入って出口を探るんだ」


「危険だわ! 」


「そんなことはない」


 イリに変わってホーリーが反論する。


「それにブラックホールに入ることと、五次元と七次元の連合軍との戦いとは関係ないじゃないか」


「大いに関係ある。七次元軍がどうやってブラックホールを操っているのか、調べるんだ」


「でもブラックホールに入って押しつぶされたら調査もくそもないぞ」


「物事には順番がある」


 あれだけブラックホールに恐怖心を持っていたノロは完全に前向きの姿勢に変わっていた。


 フォルダーがノロを見つめる。


「まず調査だと言いたいのだな」


「そうだ」

 

[402]

 

 

「調査など俺たち宇宙海賊には似合わない」


「オレ達はもう宇宙海賊ではない」


「いつから学者になった? 」


「生まれつきオレは学者だ」


「じゃあ俺は? 」


「野蛮人だ」


「なに! 」


「お前はブラックシャークの船長になってから粗暴になった」


 一瞬フォルダーがたじろぐとホーリーが宇宙大学でのことを思い出す。


― ― そう言えばフォルダーはまじめな学生だった


 その思いが伝わったわけではないだろうが、フォルダーが感情的な言葉を吐く。


「学者? 落第ばかりしていたお前が? 」


「落第は天才を育てるんだ。いい子ぶって卒業しても卒業証書以外に何も残らない」


「中退したことを根に持っているな」


「卒業証書なんてくそ食らえだ! 誰がブラックシャークを造ったんだ? 」


「… … 」


 このパンチは効いた。しかし、フォルダーが体勢を立て直す。

 

[403]

 

 

「学者には操船できない」


「試運転はオレがした」


 イリがハッとする。試運転でエラい目に遭ったからだ。しかし、言葉にはしない。完全に体勢を立て直したフォルダーが攻勢に出る。


「誰が六次元の生命体に誘拐されたノロを助けたんだ? 」


「イリだ。でもオレは誘拐されたわけではない。招待されたのだ! 」


「こいつ! どれだけ心配して六次元の世界に向かったのか、分からんのか」


「それは独自の見解だ。助けられたとは思っていない」


 フォルダーがついに拳を上げる。ノロにしては驚くほど素早く下がるとフォルダーのパンチが空を切る。


「やめて! 」


 思わずイリとファイルが叫ぶ。イリの背中に回り込んだノロも叫ぶ。


「お前にはニューブラックシャークの船長になる資質はない! 」


* * *


 フォルダーの肩の超小型通信機から緊急通信が入る。


「こちらオルカ。首星陥落の危機の報告が入りました! 」

 

[404]

 

 

「喧嘩している場合じゃないわ。オルカをノロの家に! 」


 フォルダーが通信機に口を付ける。


「迎えに来い! 」


 ノロがフォルダーの腕をたぐって肩の通信機に向かって絶叫する。


「その間に発信元時空間座標を探れ」


 フォルダーとノロが交互に通信機に向かって命令するうちにお互いのツバで顔がベトベトになる。


「汚い! 」


 フォルダーがノロを投げ飛ばす。


「何をする! 」


 すぐさま立ち上がるとフォルダーに近づく。そのとき腹に響く重低音がノロの家を揺さぶる。

 

「オルカが到着したわ」


イリがノロの腕を引いてドアに向かう。外に出るとオルカの船底が開いている。まるで強力な掃除機で吸い込まれるようにひとり残らずオルカに乗り込む。


 イリはノロの腕を放して走り出す。誰もが全力疾走で艦橋に向かう。当然ノロは最後尾に位置することになる。それでも必死になって走る。


「次元移動の体制に入る! 全員パワーシートベルトで身体を固定せよ」

 

[405]

 

 

「待て! 待ってくれ… … 」


 通路で右往左往するノロが必死に周りを伺うがいかんともしがたい。


「冷たい奴ばかりだ」


「隔壁閉鎖」


 ノロがいる通路の前後で扉が閉まると隔離される。そのとき黒い影が現れるがノロは気付かない。


「隔壁閉鎖完了。一〇秒後に次元移動開始」


 このまま次元移動すればノロは通路のあちこちに身体をぶつけて死ぬかもしれない。先ほどの黒い影が通路壁に埋め込まれた消火カートリッジを取り外すとノロを抱きかかえてその窪みに押し込む。


「誰だ! 」


「少し窮屈ですが我慢を」


 四貫目だった。ノロに覆い被さると手足を吸盤のようにして壁に吸い付く。


「次元移動開始! 」


 オルカが小刻みに振動する。床の消火カートリッジが舞い上がると取り留めのない運動を始める。通路の天井や壁や床に何度も当たりながら踊り出す。やがて四貫目の背中に突進する。四貫目はまるで背中に目があるかのように危機を察知すると身体をくねらせながら消火カートリッジの体当たりを背中の忍剣で防ぐ。

 

[406]

 

 

消火カートリッジが壁や天井に何度もぶつかって最後は床に落ちる。


「次元移動終了」


 四貫目がノロから離れて床に降りると見上げる。


「大丈夫ですか」


 四貫目はノロの顔を見て相好を崩す。ノロは窪みに埋もれたまま消化カートリッジのように泡を吹いて気絶していた。


* * *


 ノロが艦橋に現れるとイリが駆け寄る。


「どこにいたの? 心配していたのよ」


「心配? オレをほったらかしにしておいて」


「それより、あれを見て! 」


 浮遊透過スクリーンには数本の黒い竜巻に囲まれた赤黒い星が映っている。


「あれが首星か? 」


「広大・最長! 瞬示・真美! 返事をしろ! 」


 ホーリーが我を忘れて浮遊透過スクリーンに向かって叫ぶ。

 

[407]

 

 

「中央コンピュータ! 次元通信を送れ! 」


 しかし、反応はない。五次元・七次元連合軍はオルカに気付いていないようだ。トリプル・テンを特殊塗装しているからだ。首星の様子を観察していたノロがイリの手を取ると抱きつく。


「六次元化する」


「えっ! ここで? 」


「時間がない」


「待って。まるで強姦だわ」


 イリがノロをはねつける。ノロはそれでもイリに近づきながら大声を上げる。


「六次元化できる者は六次元化するんだ! 六次元化したら正規移動装置で首星に向かう」


 すでにフォルダーとファイルは一体化した。ホーリーもサーチを抱き締めると一体化する。不思議なことにイリの方からノロを抱き締めると一体化する。六次元化した者たちはオルカの格納室の正規移動装置に分乗するとすぐさま首星に向かう。格納庫には何故か黄金色の羽が舞っていた。


 しばらくするとR v 2 6 が格納庫に姿を現す。まだ何種類かの正規移動装置が残っている。そしてその光り輝く羽を掴んだときR v 2 6 の両耳が真っ赤に輝く。


「中央コンピュータ! ワタシにこの正規移動装置の操縦方法を教えてくれ」


「無理です。なぜなら、あなたはその中に入ることができません」

 

[408]

 

 

「なんとかしろ! 」


「三次元の生命体はその中に入ると原子レベルまで分解されます」


「ワタシは生命体ではない」


「単なる物体とでも」


「そうだ」


 R v 2 6 は中央コンピュータを無視して目の前の正規移動装置に入ろうとする。しかし、ドアがない。


「どうやって入るんだ? 」


「だから言ったじゃないですか。六次元化しなければ入れません」


「正規移動装置にいくつかの種類があるはず。ワタシが入れる装置はどれだ? 」


「そう言えばそんなこと聞いたことがあったなあ。えーと正四面体は小さすぎるし… … 」


「何をブツブツ言っている。どれだ! 」


「正六面立方体なら」


 R v 2 6 はサイコロのように見える正規移動装置を見つける。その表面にはまさしくサイコロと同じように一から六までの目が描かれていた。


「なんだ! これは? 」


 R v 2 6 は周りを見渡すが、正六面立方体の移動装置はこれだけだった。一の目だけが赤で他の目は黒だった。

 

[409]

 

 

「こんなもので本当に次元移動できるのか? 」


「ノロは冗談が好きです」


 R v 2 6 は躊躇することなく赤い一の目の部分を押す。その押す腕が中に吸い込まれると全身が同じく吸い込まれる。


「おかしい。何も見えない」


 両手両脚を伸ばすが接触する障害物は何もない。床の反応もない。宙に浮いているような感じがする。


「中央コンピュータ! 操縦方法は? 」


「知りません」


「そんな」


「想像ですがその移動装置はサイコロのように出た目にしたがって進むのかも知れません」


「! 」


 珍しくR v 2 6 が絶句する。唯一確認できるのは黄金色の鳥の羽だけだ。

 

[410]