第百十六章  六次元の三次元村


【次元】六次元

【空】首星

【人】ノロ・イリ フォルダー・ファイル 瞬示・真美広大・最長 提督

 

* * *

 

 首星の特別病院で六次元化したフォルダー・ファイルは広大・最長にノロ・イリとの面会を申し出た。もちろん広大・最長は快諾したが、体力が戻ったノロはそれどころではない。巨大土偶の寿命をコントロールする最終作業に没頭していたからだ。

 

「そんなはずはない。俺が来たことをキチンと伝えたのか? 」

 

「とにかく多忙で… … 」

 

 フォルダー・ファイルが広大・最長の言い訳を無視する。

 

「約束どおりノロ・イリの所へ連れて行け! 」

 

「承知しました」

 

 六次元化したフォルダー・ファイル以下海賊たちを一瞬のうちに病院から空港のような場所に移動させる。にわかに六次元の生命体となったフォルダー・ファイルたちには超ど近眼のメガネを通して得体の知れないものを見ているようで何がなんだかさっぱり分からない。広大・最長を信頼しているとはいえ不安だ。

 

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「六次元化したからとすぐこの世界を正確に見ることはできません」

 

「疑似六次元生命体だから? 」

 

「そうです。この世界で生存するための便法として六次元化手術を受けていただきましたが、元は三次元の生命体です。簡単に次元の壁を越えることはできません。でも慣れれば観念的に視覚化できるようになります。そしてある条件をクリアーすれば次元移動も可能になります」

 

「今は夢を見ていると思えばいいのか」

 

「まあ、そんなところです」

 

 フォルダー・ファイルが苦笑すると、目の前にガラスのような物体が現れる。始めはゆらゆらとした感じだったが、やがてはっきりと見えてくる。

 

「正六面立方体移動装置です」

 

 フォルダー・ファイルが目を凝らす。

 

「正六面体? 」

 

「正六面体に見えるのですか」

 

 高さ五メートルほどの正六面体が鎮座している。ひとつではない。重なるように一〇以上見える。透明に近いからそれぞれが独立しているのか、くっついているのか分からない。

 

「ふーん。これでノロ・イリのところに行くのか。どうやって乗るのだ? 」

 

「そのまま進んでください」

 

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 六次元化したフォルダー・ファイルたちは二十八人いる。誰がどれに乗り込めばいいのか分からない。しかし、フォルダー・ファイルが歩を進めながら告げる。

 

「任せる」

 

 フォルダー・ファイルの歩幅が大きくなると海賊たちも続く。するとごく自然に振り分けられて透明に近い移動装置に吸い込まれていく。息苦しさを感じることもなく暑くも寒くもない。むしろ心地よい。

 

「乗り物としては非常に居心地がいい。いよいよノロ・イリと会える」

 

* * *

 

 六次元化したと言っても五感までが六次元化することはない。車窓と表現するのは適切ではないが、フォルダー・ファイルたちには正六面立方体移動装置から見える世界は地球で見るオーロラを遙かに上回るほど美しい。次々と変わる景色に飽きることはない。ところが、しばらくするとあらゆる色を持っていた景色が黄色に急変して移動装置が小刻みに振動する。同時に警告音がなる。警告音は次元が異なってもよく似ている。

 

「巨大土偶が現れました。心配は要りません。護衛戦闘機が対処します」

 

 黄色一色の中に黒っぽいものが数十個見える。

 

「あれは? 」

 

[54]

 

 

 見る見る間に近づいてくる。

 

「巨大土偶! 」

 

 六次元の世界ではどのように見えるか分からないが、フォルダー・ファイルはその姿をはっきり認識する。両目から黄色い光線が断続的に発射される。

 

「戦闘機は? ! 」

 

「防戦中です」

 

 フォルダー・ファイルには巨大土偶は見えるが戦闘機は見えない。そのとき近くで巨大土偶が木っ端微塵に破壊される。強烈な振動とともに外壁にヒビが入る。広大・最長の冷静な声が聞こえる。

 

「合体する。正十二面立方体フォーメーションに移行! 」

 

 少し離れた場所から六次元スコープで眺めれば、正六面立方体移動装置が折り重なって元の十倍程度の大きさの正十二面立方体を形成する過程を目の当たりにできただろう。

 

「反射角度の調整を急げ。戦闘機は攻撃しながら巨大土偶を挑発せよ」

 

 広大・最長の指示を視覚的に確認できないが、以前にも増して巨大土偶の黄色い光線攻撃が激しくなる。不思議なことにそれまで移動装置の壁を透過していた光線が正十二面立方体移動装置の中では反対側の面で反射するようになる。そのような光線がすべてある一面に集中されて強力な反射光線となって、発射した巨大土偶ではなく他の巨大土偶に向かう。そして巨大土偶が大爆発を起こす。

 

[55]

 

 

 つまりこの移動装置自体は巨大土偶から発射された光線のダメージを受けることなく逆に増幅集光させて巨大土偶を破壊しているのだ。相手の力を持って相手をねじ伏せる。しかも移動装置内部にいる者は光線の影響を受けない。

 

「何という防御、攻撃能力だ! 」

 

 フォルダー・ファイルのフォルダー部分が驚嘆すると広大・最長がさり気なく応える。

 

「この移動装置はノロ・イリ、いやノロが開発した」

 

 今度はフォルダー・ファイルが一体となって驚く。

 

― ― あいつは次元など関係なく必要とあれば、何でも造ることができるのか!

 

* * *

 

「ノロ・イリは? 」

 

 首星の防衛隊本部で広大・最長が提督に尋ねる。

 

「イリがブラックシャークに向かった」

 

「どういうことなのですか? ノロは? 」

 

「眠っている」

 

「眠る? 」

 

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 広大・最長は提督の応対にズレを感じる。

 

「本当にノロは大丈夫なのですか」

 

「要は過労だ」

 

 フォルダー・ファイルが割って入る。

 

「ノロはどこにいるんだ! 」

 

「我が六次元の世界で最高の設備を誇る病院の分院にいる」

 

「分院? すぐそこへ! 」

 

 フォルダー・ファイルの身体が小刻みに震えると身体の輪郭が手振れを起こした写真のようにぼやける。やがてフォルダーとファイルが分離する。

 

「俺はノロのところに行く。お前はブラックシャークへ! イリが心配だ」

 

 すぐ広大・最長も同調する。

 

「提督! 便宜を図ってください」

 

「イリは大丈夫だと言っていた」

 

「何を言っているんですか。ノロは救世主も同然。フォルダーの願いをかなえてください」

 

「分かった。手配する」

 

 すぐフォルダーが深々と頭を下げると広大・最長も喜びながら提督に尋ねる。

 

「分院はどこにあるんですか」

 

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「三次元村だ」

 

「三次元村? 」

 

「六次元化してもこの世界で暮らすのは三次元の生命体にはつらい。ノロといえども思考を進めるのは大変なことだ。そこでノロの惑星の一部を模写して三次元村を建設した。そこには居酒屋はもちろんのことノロの家、そして病院を建設した」

 

 提督の説明に広大・最長が合点する。

 

「そういうことだったのですか。もっと早く教えてくれればフォルダーにキチンと説明できたのに」

 

「最長がノロを連れてきてくれたから、承知しているものと思っていた」

 

「我らの時間軸は複雑だ。次元が高くなると意思疎通が複雑になって緩慢になる。ところがアンドロイドの巨大土偶はその複雑な時間軸を苦にすることなく我らを翻弄した」

 

「自分たちが製造したのに彼らのC P U の性能は我らの想像を遙かに超えていた」

 

「確かに。次元が高いから、高度な生命体だとは言えないとノロは何度も言っていた」

 

 フォルダーがじれったそうに介入する。

 

「そんなことはどうでもいい。今すぐ三次元村へ! 」

 

 はっとして提督と広大・最長が詫びる。

 

「すまなかった。とにかく我々は鈍くさい。許してくれ」

 

[58]

 

 

* * *

 

「ノロ! 」

 

 ベッドでだらしなくヨダレまみれで眠るノロにフォルダーが駆け寄る。

 

「うーん」

 

「大丈夫か! 」

 

「飯の時間か? 」

 

 ノロが目を開ける。しかし、メガネを掛けていないので何もかもぼやけて見える。

 

「イリ? 」

 

「俺だ」

 

「わあ! いつの間に男になったんだ」

 

「イリじゃない。フォルダーだ」

 

「フォルダーか」

 

 フォルダーがノロにメガネを掛けてやる。

 

「久しぶりだな」

 

 ノロが大きく口を横に開いてから大声を出す。

 

「待てよ! 何故ここにいる! ここは六次元の世界だぞ」

 

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「ブラックシャークでやってきた。イリから聞いていないのか」

 

「聞いていない… … えっ! なぜブラックシャークが次元移動できるのを知ってるんだ! 」

 

「オレがそんなことを知っているわけない」

 

「中央コンピュータか? 」

 

「とぼけるな」

 

「余計なことを。と言うことはイリはブラックシャークでこの世界に来たのか? 」

 

「何を言っているんだ」

 

「広大・最長はそんなこと、一言も言ってくれなかったな」

 

「へー。不思議に思わなかったのか? 」

 

「だって滅茶苦茶忙しかったもん… … あっ! 」

 

「どうした? 」

 

「そう言えばイリはブラックシャークに行くとか言っていた。オレ、冗談かと思っていた」

 

「手は打ってある。それにしても、お前、どこに行ってものんきだな。俺もイリも心配で心配で… … 」

 

「フォルダーでも、心配することがあるんだ」

 

 フォルダーの表情が急変する。

 

「温泉旅行に来たんじゃないぞ! 」

 

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「オレはそのつもりだった。つまり招待旅行でここへ来ただけだ。見学して感想文を書けばお土産をどっさりもらって元の世界に戻るだけだと」

 

 大きな音がして絶対あり得ないことが起こる。フォルダーが泡を吐いて倒れたのだ。

 

* * *

 

「もう仕事は終わったのか」

 

「結果を確認している」

 

「どれくらい、かかるんだ? 」

 

「この世界の時間を観念することができない」

 

「それは承知している。たとえばデートするのに『○ ○ ホテルで夜の九時に待ち合わせしよう』

 

と約束しても場所も時間も全く認識できない」

 

「お前、単刀直入な申し込みをするんだな」

 

 フォルダーが首を傾げるとノロがニタッとする。

 

「ホテルで夜九時なんて下心そのものじゃないか」

 

「そんなつもりで言ったんじゃない! 」

 

「まあまあ、興奮するな」

 

「こいつ! どれだけ心配したのか分かってるのか! 」

 

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「じぇん、じぇん」

 

 フォルダーがノロの胸ぐらを掴むと高々と上げる。

 

「オレは病人だぞ」

 

 フォルダーがノロをベッドに投げつけると慌てて広大・最長が淡い光線を発射する。ノロがベッドでバウンドすると空中に浮かぶ。広大・最長が重力調整したのだ。ノロがゆっくりとベッドに落ちる。それを見たフォルダーが滅多に見せない涙を浮かべる。

 

「なあ、ノロ」

 

 ノロはベッドであぐらを組んでフォルダーを見つめる。

 

「俺たちの世界の時間でいいから、あとどれぐらい待てばいいんだ? 」

 

「それは分からん。この世界の因果は想像を絶する。六次元化しても理解は不可能だ。承知していると言ったじゃないか」

 

「そうだが、限界だ」

 

「フォルダーらしくないな。これしきのことで弱音を吐くなんて。それにお前、勝手にこの世界に来たんだろ? 」

 

 フォルダーが強く目を閉じると涙が頬を伝わる。

 

「お前って言う奴は… … 」

 

 広大・最長が息を呑んでふたりを見つめる。ブツブツ言いながらフォルダーがノロに近づく。

 

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ノロは視線を外さない。広大・最長がフォルダーの背後に迫る。

 

「分かった。邪魔したな」

 

 フォルダーがクルッと身を反転させると、今にもフォルダーを羽交い締めにしようと身構えていた広大・最長と鉢合わせになる。

 

「ブラックシャークに戻る。イリ、それにファイルが心配だ」

 

 広大・最長が蒼白な表情で直視するとフォルダーが大きな声で笑う。

 

「はっはっは。偉そうに『戻る』と言ったが、どうやって戻ればいいんだ? 」

 

 そのときイリが現れる。

 

「ノロ! あっ! フォルダー! どうしてここに? 」

 

「ファイルと会ったか? 」

 

「ファイル? 」

 

「俺と分離してブラックシャークに向かったはずだ」

 

「いいえ」

 

 ここでノロが口を挟む。

 

「この世界では常識は通用しない。この世界の因果はオレ達から見れば無茶苦茶だ。まあ、気にしなければなんと言うことはない」

 

「気にしなければ… … か」

 

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「そうだ」

 

「お前は大した奴だ。ますます好きになった」

 

 ノロが身構える。

 

「男に好かれたくない! 」

 

 フォルダーが腹を抱えて大笑いするといやがるノロを抱き締める。

 

* * *

 

「広大・最長。交通整理をしてくれ。時間が絡みすぎて何が何だか分からなくなった」

 

「ノロのお陰で何とかアンドロイド( 巨大土偶) をコントロールできるようになった」

 

 そして広大・最長が提督に確認する。

 

「いつまでもノロに頼るわけにはいきません。あとは自分たちの力で何とかしなければ」

 

「そうだな」

 

 同意した提督にノロが語りかける。

 

「昔、地球を回る宇宙ステーションに何ヶ月も滞在した宇宙飛行士が地球に戻ったら歩くことはもちろん立つこともできなくなったという。それと同じでこれ以上六次元の世界にいると、三次元の世界に戻っても通常の生活ができないかもしれない」

 

 提督の代わりに広大・最長が応じる。

 

[64]

 

 

「その逆も真なりだ。三次元の世界に長居して六次元の世界に戻ってきたら、それまで苦もしなかった四つの時間の流れに溺れてしまった」

 

「そうでしょ! 」

 

 イリが大きく頷くとノロが続ける。

 

「瞬示と真美なんか、三次元での生活が最長より長かったから、六次元の生命体であることを忘れて自分たちを三次元の生命体だと思い込んでしまった」

 

 その瞬示・真美が現れると瞬間的に瞬示と真美に分離する。

 

「噂をすればなんとやらね」

 

 イリがふたりを見つめながら手を打つと振り返ってノロに提案する。

 

「そうだわ! 広大・最長より三次元の世界を知り尽くした瞬示と真美に時間の交通整理をお願いすれば? 」

 

「素晴らしい考えだ」

 

「いつもこけ降ろしているのに珍しいわね」

 

「そんなことはない。オレはいつだってイリの意見を尊重している」

 

「調子いいんだから」

 

 真美がにこやかにイリに近づく。

 

「私たちにとって第二の故郷の三次元の世界… … 」

 

[65]

 

 

 瞬示が割って入る。

 

「『三次元』と言うより地球だ。キャミやミト、ホーリーやサーチにもう一度会いたいな」

 

「住職にもでしょ? 」

 

 真美が微笑む。

 

「住職! 懐かしいな」

 

 ここでフォルダーが絡む。

 

「地球では大変な事件が起こっている」

 

 ノロがイリからフォルダーに視線を変えながら近づく。

 

「地球という星はいつでも事件ばかり起こす星だ」

 

 否定する者はいない。だが唯一イリが首をひねる。

 

「他の星では大変なことは起こらないの? 」

 

 ノロがキッとイリを見つめる。

 

「鋭い! 」

 

 珍しくノロの表情が固まる。誰もがふたりを直視する。

 

「イリの言うとおりだ。本当のことを言うとこの六次元の世界に来た理由はいかにして巨大土偶の増殖を止めるかではなかった」

 

 一番驚いたのは広大・最長… … いや最長だった。リクエストが発生する前にノロが講義に入る。

 

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「三次元の世界の二倍の次元、四倍の時間軸を持つ六次元の世界の生命体の種類は意外と少ない。四次元、五次元の生命体の種類を実際に見たことがないので意見は差し控える。一方、三次元の生命体について、この世界から重要なデータを入手した」

 

 誰もが固唾を呑んで次の言葉を待つ。

 

「三次元の高度生命体がいる可能性が高いとされる星々のデータを分析した結果、地球ほど多種多様な生命体が存在する星はなかった」

 

 ノロの表情が戻る。つまり大きな口を横に広げてからニーッと笑う。

 

「ふふふっ。地球は生命が溢れた惑星だ。しかし、生命誕生から知的生命体までの進化に他の惑星の知的生命体より何百、いや何千倍かかった」

 

 ゴクリと唾を呑み込む音が六次元の生命体も含めてここかしこでする。

 

「このことは何を意味するのか? 」

 

 ノロは誰も発言しないと思って大きく口を開いたとき、イリが発言する。

 

「地球の生命は鈍くさいということね! 」

 

「大当たり! ウイルスのような生命体が生まれた後、子孫を残すために進化を開始するも、地球という星の環境は意外と厳しかった」

 

「地球は多様な生命体を育むゆりかごと言うよりは、厳しい戦いを強いる競技場なのね」

 

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 イリの再度の突っ込みにノロが興奮する。

 

「そう! 地球は過酷な環境をあらゆる生命体に課して、進化と淘汰という戦争を通じて継続と退場を生命体に通知するだけの厳しい神のような存在だ」

 

 イリは軽く突っ込んだと思っていたが、ノロの強い反応に黙ってしまう。ノロは一気に自説を展開する。

 

「神は間違っていた。つまり進化に厳しいルールを適用して争うことを強く推奨したから平和を否定することになった。一方、人間は神に勝利をねだる。本来の神はそのようなことを教えるわけがない。なぜそのようになったのか。厳しい進化を通じた生存競争のなかで、勝者ほど勝利を通じて新しい理念を取得する。進化が進化を助長してやがて進化のゴールに到達して知性を得た人類はそれまでの偶然的な勝利をすべて神という概念に変換した」

 

 ノロの激しい言葉に誰もがたじろぐ。

 

「ところが厳しい競争を勝ち抜いたにもかかわらず、人類は自分たち以外の生命体を駆逐する。悪意がないと言い訳しても許されるものではない。その行為が地球を破壊することに気付かずに、あるいは目を背けてひたすらエゴをむき出しにして行動することになった。他の生命の迷惑など顧みず戦争と略奪を繰り返し、やがて最終兵器まで開発して、同じ種族であるにもかかわらずにらみ合う。どちらかが動けば結果は破滅となる瀬戸際で取っ組み合いをしていた」

 

 ここでノロは言葉を収めてため息をつく。尻込みしていたイリがノロの手を握る。

 

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「ねえ、ノロ」

 

 ノロがイリの手を握り返す。

 

「ノロの言うとおり神は間違っていたわ。過酷な進化を提供する地球は最も残酷でひとりよがりな人類という金メダリストを出現させてしまった。もちろん知的な能力を持たない動植物も自らの種の存続を確保するために絶えず争う。生命の起源とされるウイルスが滅びることなく進化の先端を走る人類を攻撃する過酷な世界。それが地球。地球という神が存在するのなら、自殺するために地球は太陽系に存在しているのかしら」

 

 ノロはイリを見上げる。性行為で愛を共有したのではない。六次元化することによって同体化した。もちろんノロもイリも六次元化するなんて思いもよらなかった。まさかイリが六次元の世界に来るなどノロにとって青天のへきれきだった。

 

 つまり、イリの強い願いでフォルダーの心を動かしてブラックシャークでノロ探索に六次元の世界に向かった。見事ノロと再会して六次元化の手術を受けた。

 

 その結果、三次元の身体に戻ってもイリはノロの根本的な考えを習得していた。このふたりは本当の意味で一心同体になっていた。そしてノロはイリの人間想いな感覚をそれまで以上に強く共有するようになった。

 

「この感覚を人類に埋め込めば… … 」

 

 ふたりは同じ事を考えたがそれは神に逆らうことになる。

 

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「それにホーリー、サーチ、住職… … 人間ではないが、R v 2 6 もしっかりと優しい感情を持っている」

 

 ふたりが頷く。

 

「戻ろう」

 

 ノロの言葉にイリは頷くが返事はしない。三次元の世界に戻れば一心同体の身体は引き裂かれて元に戻ることになる。イリに未練が残る。もちろんノロはそのことに気付いている。

 

「任せてください」

 

 真美の声がイリを現実に戻す。

 

「交通整理じゃなくてキチンと時間整理して三次元の世界に戻りましょう」

 

「時間軸のことは分からないけれど、どこに戻るの? 」

 

 真美が応える前にノロが明言する。

 

「オレの惑星に決まっているじゃないか」

 

「そうね。ノロの惑星で誘拐されたんだから当然ね」

 

 ここで沈黙していたフォルダーが発言する。

 

「ノロの惑星も地球も五次元の生命体の攻撃を受けた。五次元の世界を偵察してから戻るべきでは? 」

 

「確かに。瞬示、頼めるか」

 

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「可能です。しかし、直接三次元の世界に戻るのとは勝手が違います」

 

「どういうことだ? 」

 

「五次元のどの時空間に移動するのか… … 直接三次元の世界に戻るより複雑です」

 

「三次元の世界は五次元の世界とは融和性がないから? 」

 

 ノロの鋭い質問に瞬示が素直に応える。

 

「そのとおりです。六次元の世界は三次元の世界の倍次元なので融和性が高い。一方、三次元と五次元の世界はどちらも素数次元です」

 

 頷くノロを無視してイリが尋ねる。

 

「五次元の世界に行くとすれば、私たちの身体は一心同体のままなの? 」

 

 ノロの代わりに瞬示が応える。

 

「そのように対処することを強く推奨します」

 

 イリは五次元の世界に寄り道して三次元の世界に戻ることを喜ぶ。それはノロの思いを共有する時間が長くなるからだ。

 

「回り道しよう」

 

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