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「スミスさんはね、私たちが徹底的に不公平や不正を分かり易く報道してきたので、おとなしかった国民をこれ以上をごまかすことができなくなったのと、そして海水が消滅するという未曾有のどうしようもない大事件が起こって、政治家や高級官僚が仕事を放りだしたとおっしゃったの」


「日本だけだよ。そんな醜態をさらけ出した国は」


 逆田が苦笑いする。


「でも、これからどんな報道をすればいいものか。零細報道機関の私たちの会社には荷が重すぎる」


「そんなことはないわ。これまでも大手の放送局と互角に、いえ互角以上にやってきたわ」


「そうだった!確かに」


 逆田が誇らしげに胸を張る。


「でも絡まった糸をほぐして、これからの日本の方向性を報道するのは大変だわ」


「同情するつもりはないが、政治家たちが逃げ出した気持ちが何となく分かる」


 山本が逆田に相づちを打つ。


「制度の改革的な見直しを絶えずしなければならないのに、利権争いに目を奪われて元々いい

 

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加減だった法律をいじくりまわすから制度に背骨がなくなった。しかも継ぎ接ぎだから元の形がまったく分からない怪物になってしまった。その怪物が国民を襲うようになって始めて大騒ぎするけれど遅きに失したと言うことだわ。さらに既得権というコバンザメが怪物に絡まるようにうようよしている」


「山本さん、成長したな」


 逆田が山本を眩しそうに見つめる。


「スミスさんの受け売りよ」


「そんなことはない。しかし、民意を問うことなく野ざらしにしていたし、国民の方も自分のことなのにほったらかしにしていた。結局大きなツケが回ってきた」


「どちらもどちらね。でも今は違う。なんとかなるんじゃなかしら」


「限られたスタッフでこれから何を報道すればいいのか、アイデアは?」


「小さなことから始めましょ」


「小さなこと?」


「そうじゃ。小さいことからでいいのじゃ」


 逆田がいつの間にか放送室に入ってきたふたりの老人に気付く。一緒にいる田中の存在には気付かずに尋ねる。


「どちら様ですか」

 

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「逆田さん、驚かせてごめんなさい。紹介します。スポンサーの大家さんです」


「逆田です。しかし……」


 狼狽える逆田に山本がにこやかに説明する。


「双子じゃない。ふたりとも一人の人間なんですが、なぜかふたりに見えるのです」


 逆田は同じくにこやかな表情で握手を求めるふたりの大家の前で立ちつくす。しかし、すぐに「あっ!」と大声で叫ぶとかがんで握手する。


「無駄遣いは駄目じゃが、資金の心配は要らん」


「ありがとうございます」


「逆田さん」


 逆田は大家の後ろにいる男に気付く。


「覚えていますか」


 逆田が軽く首を横に振る。


「山田電気であなたからテレビを買いました」


 逆田は首を傾げたまま田中を見つめる。その田中が不気味に微笑む。


「こうすれば、思い出すでしょう」


 田中の身体が細くなって背丈も縮む。


「田中さん!」

 

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 山本が叫ぶと両大家がカニのように泡を吹く。佐々木の身体だった田中は元の自分の身体を取り戻すかのように全身をヘビのようにくねらせる。そして元の身体に戻る。まるで小学生が大人の服を着ているように見える田中が逆田に近づく。


「あっ!」


 逆田が元の身体だけではなく、元の顔に戻った田中の目線から逃げる。


「あのときの……」


 ドサッという音とともに山本と両大家が倒れる。


「あれから僕の人生はがらりと変わりました。お礼を申しあげなければと思っていました」


 逆田が腰を折り曲げると山本の頬を叩く。そして息をしているのを確認すると田中を見上げる。


「あのテレビ決して高い買い物ではなかったでしょ」


 両大家の体調がまずまず回復したころを見計らって山本が逆田に尋ねる。


「逆田さんはあのテレビの秘密を知っているんでしょ?」


「あのテレビは真実を報道するテレビでした」


「それは分かっています。秘密を知りたいの。それに私も元の身体に戻りたい」


「タイの工場ですべて水没したことは説明しましたね」

 

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「はい」
「すべて水没したのに、なぜ、逆田さんは僕にあのテレビを売ろうとしたのですか」


 田中が冷静に逆田に尋ねる。


「今はあのテレビの説明だけします」


「?」


「言っている意味がよく分からない」


 ふたりの言葉を無視するように逆田がしゃべり出す。


「水没していたからでしょう。濡れた段ボールを開けると水滴のついたあのテレビが入っていました」


 逆田は目を閉じてこめかみを押さえる。


「段ボール箱からテレビを取り出すと持った手から青白い火花が線香花火のように現れると私とテレビを包みこみました」


 逆田の顔が苦悩にゆがむ。


「そのあと、何がどうなったのか記憶はありませんが、私は必死になって目の前の田中さんにあのテレビの売り込みをしていました。『このテレビは田中さん以外売ってはいけない』と……」


 山本が大きな胸を精一杯ふくらませると息を吐きだす。

 

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「田中さんの隣に住むことになったのは……えーと、確か……」


 山本は自ら大きな胸を鷲づかみすると苦しそうに悶える。両胸から両手を頭に移して髪の毛をかきむしる。すると胸がしぼむように収縮し始める。胸だけではない。少しはばかることなので簡単に説明するが、リングラングの体型に合った服が滑り落ちるように床に到着するとほぼ裸に近い状態になる。しかし、山本は恥じらうこともなく、元の顔と身体を取り戻してガッツポーズを取る。そして周りの複雑な視線に気付くと床の服を拾い集めて身体にまとう。

 

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