第百五章 四貫目対五右衛門


【時】永久0297年6月

【空】地球限界城

【人】四貫目 お松 ホーリー サーチ ミリン Rv26 ノロタン

   五右衛門(三太夫)  レフトハンド

 

***

 

 森の中で背中の傷を癒やすために長い眠りについていた四貫目はけたたましい轟音で目覚める。そして木々の間から逆さまになって低空飛行するビートルタンクを発見する。

 

「あれは!」

 

 ビートルタンクに向かって限界城からカブトワリが次々と発射される。

 

「我らのカブトワリとは余りにも大きさが違う」

 

 しかし、仰向けのビートルタンクの底部に命中するもびくともしない。

 

「考えたな。背中は固いがまともにカブトワリの攻撃を受けたら収納した羽がやられる。当たりどころが悪ければ羽ばたけなくなる」

 

 そのとき一発のカブトワリがビートルタンクの無限軌道に命中するとキャタピラが散らばって落下する。遅れてその命中音が四貫目に届く。やがてカブトワリ攻撃が止まる。

 

[544]

 

 

「狙いはよかったが、諦めたのか」

 

 ほっとして四貫目は近くの池に向かう。そして上半身を反らして水面に映った背中を確認する。

 

「それにしてもカブトワリの術を駆使するとは……」

 

 四貫目は不吉な予感に苦慮する。

 

***

 

 Rv26とカーン・ツーをお松が操縦する時空間移動装置に乗り込ませた後、四貫目は不覚にも背後からのレーザー光線の攻撃を受けた。幸いにも背中の電磁忍剣が四貫目を救った。それでも重傷に違いなかった。まず回復剤を服用して撤退する戦闘用アンドロイドの時空間移動装置に乗り込むと次々とレーザーナイフで仕留めて病院からなんとかこの森に逃げたのだった。

 

「限界城に忍法を心得たものがいるとすれば、いったい誰なのだ」

 

 四貫目は懐のガラス瓶と巻物を確認するとビートルタンクのホーリーに無言通信を送る。

 

{ホーリー}

{四貫目!大丈夫か}

{心配無用。Rv26は?}

 

[545]

 

 

{宇宙戦艦の艦長として地球上空で待機している。俺と一緒にいる}

{それは心強い。これからどうするのだ}

{それよりどこにいる?}

{限界城のほぼ真下の森に潜んでいる}

{宇宙戦艦に連絡して時空間移動装置を差し向ける}

{無用だ。時空間移動装置は確保している}

{さすが}

 

 四貫目との無言通信を一旦切るとホーリーがお松に報告する。

 

「四貫目は無事だ」

 

 すぐさまお松は四貫目に無言通信を送る。

 

{兄じゃ!}

 

 お松の目から涙がこぼれる。

 

{お松。気になることがある。カブトワリの使い手は三太夫以外にいるか?}

{兄じゃと影丸様だけ}

{やはり。しかし、影丸は月でのクーデターで死んだ}

 

 無言通信が途切れる。

 

{兄じゃ!}

 

[546]

 

 

{三太夫は生きている}

 

 再び途切れる。

 

{兄じゃ。宇宙戦艦の座標軸を伝えます。すぐ戻ってきて!}

{奪い取った時空間移動装置にはいつでも限界城へ戻れるように自動プログラムがセットされている}

 

 お松は直感的に四貫目が限界城に向かうと確信する。

 

{一旦戻ってください!}

 

{間もなくビートルタンクが反撃に転じる。それがしは限界城の内部からホーリーの作戦を支援する}

 

 一方的に無言通信が切れる。お松の報告を受けたサーチがRv26に進言する。

 

「どう思う?」

 

 Rv26がサーチではなくノロタンに尋ねる。

 

「人間の行動には理解できないことが多々ある」

 

「そのとおりだ。それがいい方に向けばいいが、悪い方に向く方が多いような気がする」

 

 自らの言葉にRv26が、そしてノロタンが爆笑する。そしてその爆笑の意味を理解したサーチやミリンも大笑いする。

 

「俺やノロタンもMY28もアンドロイドはみんな人間化したようだ」

 

[547]

 

 

 Rv26がサーチに近づく。

 

「限界城を攻撃するのは今だ。こんどこそ二度と復元しないように完全に破壊する」

 

 サーチが頷く。

 

「この地球を守るのではなく、この三次元の世界を守るために限界城を攻撃しなければ!」

 

 今度はRv26が頷いてみせる。

 

「ビートルタンクに攻撃命令を!」

 

 サーチたちが無言通信で攻撃命令を伝える。

 

***

 

 ビートルタンクが仰向け状態から通常姿勢に戻る。四貫目から強力な無言通信がホーリーに入る。

 

{ダメだ。さっきの姿勢に戻せ!}

{いや、この姿勢で対処する}

{カブトワリが飛んでくるぞ}

{構わん。限界城が宇宙に出ればビートルタンクは追跡できない}

{そうだった}

 

 ビートルタンクは大気がある環境でないと羽ばたいて移動できない。大気圏外ではクワガタ戦闘機の協力がないと攻撃態勢を取れない。

 

[548]

 

 

{彼らを地球上空に留めておくために捨て身の作戦をせざるを得ない}

{しかし、ヤツラもバカではない。ここはそれがしに任せてくれ。それまで仰向けの体勢を!}

{どうするんだ!}

 

 四貫目は時空間移動装置の操縦桿を握ると移動先を自動セットする。そして懐からガラス瓶を重そうに取り出したあと背中の忍剣を抜く。刃こぼれしてノコギリのようになった忍剣にガラス瓶からドロッとした数滴の黒い液体を垂らす。くすんだ七色の輝きを発していた忍剣が真っ黒になる。しばらくすると透明に近いグレーに変色する。刃こぼれは相変わらずだが、忍剣はまるで四貫目に何かを訴えるような怪しい黒い光を発する。四貫目は時空間移動が終わったことも忘れて忍剣を見つめ続ける。

 

***

 

{やはり来たか}

 

 鈍い紫色の光がねじれる得体のしれない場所で四貫目が二回り以上大きな五右衛門と対峙する。

 

「五右衛門?三太夫?」

 

[549]

 

 

「さすが四貫目。ここまでよく来たな」

 

 四貫目は背中の電磁忍剣を抜いて構える。

 

「レーザー光線を防いだ忍剣はもはや刃としての役目を終えている」

 

 確かに三太夫?いや五右衛門のいうとおり忍剣は炭化してもろくなっているように見える。四貫目はこの言葉に強く反応する。

 

「姿、形は三太夫そのもの。我らが頭領の三太夫の身をもてあそんでいるのか。そうであれば絶対許せぬ」

 

「身をもてあそばれているのは五右衛門の方だ。四貫目。わしと同じ永遠の命を欲しいとは思わぬか」

 

「どういうことだ」

 

 五右衛門は四貫目が生命永遠保持手術を受けていることを知らない。

 

「もう一度ワシの元で働かないか」

 

「お前は三太夫ではない。身体が大きすぎる」

 

「もちろん身体はアンドロイドだ。ワシの脳はこの身体を征服した」

 

「!」

 

「こんな話をすればワシが三太夫だと信じるだろう」

 

「これのことか」

 

[550]

 

 

 四貫目が懐から巻物を取り出す。

 

「やはり。お前が持っていたのか。そこに書かれている物語は真実かどうか?お前はどう思う?」

 

「それは分からぬ。ただノロが三太夫の子孫だと書かれていることが……」

 

「ノロ。本当に我が子孫なら史上最高の忍術の使い手だ。四貫目、お前はノロと会ったことがあるのか」

 

「むろん」

 

「会わせてくれ」

 

「それは無理というもの」

 

「なぜだ」

 

「ノロは六次元の世界にいる」

 

「今も六次元の世界に?」

 

 会話が途切れる。ふたりは黙ったまま視線を逸らさない。

 

「四貫目!巻物を返せ」

 

 四貫目が黒光りした電磁忍剣を構える。

 

「刃こぼれして真っ黒に錆びた忍剣で抵抗するとは気が狂ったか。よこせ!」

 

「断る」

 

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 次の瞬間小さな五角形のつぶてが四貫目を襲う。「キーン」という金属音がすると電磁忍剣が根元で折れる。

 

「!」

 

「ワシのカブトワリを防ぐとは腕は衰えておらんな」

 

 四貫目は忍剣を投げだすと電磁ナイフを手にする。

 

「脳が戦闘用アンドロイドの身体を支配したのか」

 

「そうよ。所詮アンドロイドは機械だ。コツさえ分かれば簡単に支配できる。しかもこの身体は永久に稼働可能だ」

 

 再びカブトワリが四貫目の頭部に向かう。後方に跳躍しながら電磁ナイフで防ごうとするが、四貫目の右脇腹をカブトワリが直撃する。「キン」という音がすると黒い液体とも気体ともたとえようのない物質が流れ落ちる。そして紫色の金属を磨きあげたような床に幕を張るように広がる。すぐさま四貫目は懐から袋を取り出すと割れたガラス瓶が袋からこぼれて床に落下する。ガラス瓶、いや、中にあったある物質がカブトワリの貫通を防いでくれたが、それでも腹部から血がにじみ出る。

 

「どうだ。四貫目。ワシのカブトワリは防げぬぞ」

 

 片ひざを着いて電磁ナイフの構えを崩さない四貫目に五右衛門は手の中でカブトワリを踊らせる。そしてこの戦いの一部始終を五右衛門の背後で見ていたレフトハンドをアゴで指して吠えるように迫る。

 

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「このアンドロイドの身体にお前の脳を埋め込む。お前も永遠の命を得てワシと一緒にこの宇宙を支配しようじゃないか」

 

 かすかに四貫目は首を横に振ると電磁ナイフに力を込めて顔の前で構える。

 

「楯突くのか!」

 

 五右衛門の手の中のカブトワリが消える。次の瞬間電磁ナイフが床に落ちて四貫目の左手首に穴が開く。

 

「四貫目!覚悟!」

 

 そのときレフトハンドがレーザー銃で五右衛門の背中を撃ちぬく。

 

「何をする!」

 

 レフトハンドがレーザー銃を連射するが、床に伏せながら五右衛門がカブトワリで反撃する。鋼鉄の頭部をカブトワリがいとも簡単に貫通する。

 

「しまった!」

 

 アンドロイドの急所は胸だったことを忘れた訳ではなかったが、五右衛門は咄嗟のことだったので四貫目と同じようにレフトハンドの頭を狙ったのだ。

 

「なぜ人間にこの身体を提供しなければならないのだ!」

 

 近づいたレフトハンドは叫びながら五右衛門の胸を踏みつける。その足を取って逆にレフト

 

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ハンドを倒してレーザー銃をもぎ取ると左胸に当てて発射する。レフトハンドの身体から力が抜けて人形のように動かなくなるが、口元だけが動いて明瞭な言葉を発する。

 

「三太夫に支配された五右衛門に俺たち戦闘用アンドロイドは騙されていたのか」

 

 しかし、それは単なる言葉ではなくレフトハンドが渾身の力を振り絞って仲間の戦闘用アンドロイドに発した言葉だった。

 

「今度はお前の番だ」

 

 今や三太夫と呼んだ方が正しいのだろう。三太夫が四貫目にゆっくりとレーザー銃を向ける。三太夫をじっと見たまま四貫目は足元にある折れた電磁忍剣の刃の根元の先端を足の指先で押さえる。生を受けたように刃が垂直に立つと三太夫に向けて蹴る。

 

「!」

 

 レーザーライフルの攻撃でたっぷりとエネルギーを吸いこんだ電磁忍剣から強力な光が上下一直線となって鋼鉄製の三太夫の身体をいとも簡単に左右に分断する。言葉を発する間もなく三太夫の身体が強力な光を発して左右に分断されてそのまま倒れる。思わず四貫目は目を閉じて無事な方の手で目を被う。

 

「見事だ」

 

 どこからか声がする。

 

「私は限界城の当主」

 

[554]

 

 

 プスプスと青白い光を発する三太夫の残がいがほのかに周りを照らすが、あの紫色の金属を磨きあげたような床だけでなくすべてが暗黒の世界になっている。

 

「私の世界に来ないか」

 

 頼みの青白い光も消えて黒色さえも見えなくなる。四貫目は出血を止めるため左手首上を布で締め上げる。

 

「意図は?」

 

「この世界の人間に興味がある」

 

 四貫目は閉じた目を指先で強く押す。そして緊張感を解放して念ずる。

 

「まずはここから出せ」

 

「囚われの身でよく言うな。それにその巻物。そのなかの情報にも興味がある」

 

「ノロのことか」

 

「よこせ」

 

 四貫目は周辺を探るがかなわない。

 

「分かった。その代わりここから出る手立てをしろ」

 

 そのときガラスを引っ掻いたような警報が鳴る。さすがの四貫目も思わず負傷した手で耳を押さえる。

 

「限界城が縮みます」

 

[555]

 

 

「縮む?」

 

「原因は不明です。黒い不思議な物質が限界城全体を包み込みました」

 

「戻れ!五次元の世界に戻れ!」

 

「できません!」

 

 当主の声が上ずる。同時にかなり近いところで爆発音がする。

 

「四貫目!こちらへ」

 

 四貫目は確かめることなく、もちろん確認などできる状況ではないが、とにかくその声に向かって走り出す。幸い足元は弾力性がある平坦な床で難なくその声がした地点に到達する。

 

「!」

 

 四貫目は両脇から抱えられるように宙に浮く。

 

「心配しないでください。我々は戦闘用アンドロイドです。限界城からの脱出に協力します」

 

 抵抗することなく素直に四貫目が尋ねる。

 

「なぜ助けようとする」

 

「五右衛門が我々の人格を無視したからです」

 

 四貫目は狭い部屋に押しこめられると周りが明るくなる。明るい環境に四貫目は目を固く閉じる。気が付けばそこは時空間移動装置の中だった。

 

「二、三人は同乗できる。一緒に乗って脱出しよう!」

 

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「貴重な助言に感謝しますが、我々は脱出する手段を持っています」

 

 その言葉と裏腹に戦闘用アンドロイドがひとり乗り込んでくる。

 

「ワタシが操縦します」

 

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