【時】永遠二十九世紀
【空】地球
【人】Rv26 ホーリー サーチ ミリン ケンタ 住職 リンメイ ミト 四貫目 お松
***
「今から元大統領がそちらに移動する」
アンドロイドの地球連合艦隊の旗艦にRv26が時空間移動装置で移動する旨の連絡が大統領補佐官から入るとホーリーの表情が緩む。
「それは心強い」
ホーリーたち、ビートルタンク隊はなぜかこの宇宙戦艦に滞在している。それは永遠の生命を保持していると言っても紫花粉に感染することは避けなければならないというリンメイの警告をそのままサーチがホーリーに伝えたからだ。つまり紫花粉に感染する確率はアンドロイドの方が低い。そして人類の命運を握るのはアンドロイドだと直感したからだ。
「この宇宙戦艦の艦長を説得して乗艦したことが究極の選択だったことになる」
「元大統領が到着しました」
[688]
「艦橋に案内しろ」
「了解」
人間とアンドロイドの宇宙戦艦は取りあえず停戦状態にある。やがてRv26が艦橋に現れる。元の体型に戻った近づいてくるRv26を眩しそうにホーリーは見つめる。
「ホーリー。なぜここにいる」
Rv26が手を差しだす。
「和解を受け入れる可能性はアンドロイドの方が高いと考えたからだ」
軽く握手をしながらホーリーを見降ろしてRv26が首を小さく縦に振る。
「ホーリーの言うとおり、人間は追いつめられている」
逆にRv26を見上げて尋ねる。
「Rv26の地球での役割は?」
「大統領になる者がいない。特にアンドロイドは暗殺の恐怖に怯えている」
「人間は?」
「自分の身を守るのが精一杯だ」
「人間の地球連合艦隊を除いてだろう」
「そうだ。宇宙戦艦にいる人間は紫花粉に感染する心配がないから、何とか理性を保っている」
[689]
「地球の状況は?」
「紫感染症が蔓延している。人間は北極や南極や高い山に向かっている」
「花粉が寒さに弱いからだろう」
「だが、食糧や水が足りない。紫花粉症で死ぬより凍傷や飢えで死ぬ人数の方が多い」
ホーリーたちが落胆する。会話が途絶えるとミリンが口を開く。
「ノロタンが狂ったの」
「狂った?」
「見境なく宇宙戦艦を攻撃したの」
「攻撃?」
「新宇宙海賊船パンダで」
「パンダ?」
艦長の肩口からコードがRv26の肩口に向かうと繋がる。一瞬のうちにデータが転送される。同時にRv26の耳が輝くとコードが離れる。詳細な経緯を知ったRv26がすべてを理解する。
「端末が狂うとすれば、原因はCPUの暴走しかない。しかし、中央コンピュータの端末が急に暴走するはずがない」
Rv26はここで言葉を止める。
[690]
――何かを考えての行動では?
こう思うと素っ気なく応える。
「一応、心得ておく」
発言者がホーリーに戻る。
「それよりRv26こそ、なぜこの宇宙戦艦に来たのだ」
「紫花粉に感染していない人間を地球から脱出させるためだ」
「どうすればいい?」
「まずアンドロイドを説得して協力してもらう」
艦長の表情が険しくなる。
「それから?」
「人間の地球連合艦隊を説得する」
「その内容は?」
「先ほども言ったが、今や紫花粉に感染していない人間はほんのわずかだ」
Rv26が目を閉じる。
「我々アンドロイドは人間が造ったロボットが原型だ。改良されてやがてアンドロイドになり、ノロから自我をプレゼントされた。アンドロイドにとって人間が親のような存在であることは決して忘れない。結果としてこのような状況になったが、人間もなんとか命を永らえて子孫を絶やさずにこの宇宙に存在し続けて欲しい」
[691]
このRv26の言葉にホーリー、サーチ、ケンタ、ミリン以下人間の誰もが感激して涙を流す。Rv26の言葉が続く。
「我々アンドロイドも生殖機能を取り戻す方法を見つけ出して、再び子孫を造って繁栄させる。そのためにここへ来た」
艦長がRv26に近づく。
「アンドロイドの地球連合艦隊の司令官に就任していただきたい。なんならワタシはこの艦の副艦長でもいい。Rv26が艦長を兼務してください」
「いや、司令官として、そして艦長として留まってくれ」
「肩書きには拘りません。アンドロイドを代表してすべてをRv26に任せます」
「俺もだ。できる限りのことをする」
「ホーリー」
Rv26が力一杯抱きしめるとホーリーがうめく。
「殺す気か」
***
Rv26はアンドロイドの司令官とホーリーを特使として人間の地球連合艦隊の司令官が乗艦する宇宙戦艦に派遣する。
[692]
「我々アンドロイドは全宇宙戦艦と時空間移動装置を紫花粉に感染していない人間に提供する」
「まさか」
人間の地球連合艦隊の司令官がまじまじとホーリーをそしてアンドロイドの司令官を見つめる。
「これはRv26の提案だ。不満はないだろう」
「Rv26が地球最大の危機、五次元の生命体との戦いも含めて五百年以上も地球の大統領として尽くした功績は認める。しかも潔く身の引いたと歴史で学んだ」
「受けてくれるか?」
ホーリーが慎重に尋ねる。
「受けたい」
ホーリーはその気持ちをていねいに汲み上げる。
「この提案をできるだけ早く受け入れなければ、宇宙戦艦に乗艦した人間以外、人類は全滅する」
「だから、受けたい。しかし……」
ホーリーが焦れて司令官の言葉を遮る。
[693]
「時間がない。何が問題だ!」
司令官がホーリーを見すえる。
「あなたが問題だ」
「?」
「なぜ、あなたは千年も生きているのだ?しかも生身の身体で」
「知っていたのか……」
ホーリーが付けヒゲを外すと司令官がうつむく。
{ホーリー}
急に無言通信が入る。
{誰だ!}
司令官がうつむいたまま顔を両手で包むと額に指を掛ける。
{私を忘れたのか}
次の瞬間、司令官の足元に顔面マスクが落ちる。
「ミト!生きていたのか」
艦橋にいるスタッフはなんのことなのか、まったく分からずにホーリーと自分たちの司令官を見つめる。
「キャミは?」
[694]
「死んだ」
「えっ!」
「それより、今はホーリーの、いやRv26の提案をどのようにして受け入れるのか、それが問題だ。そうだろう?」
混乱した頭をかきむしってホーリーが苦悩する。
「人間は今回の紫花粉症に乗じて永久の命を得ようとエゴをむき出しにしている」
やっと顔をあげてホーリーが応じる。
「説得が難しいと言いたいのか」
「そうだ。バタバタと紫花粉症で死んでいくのに逆に欲望を募らせている。ホーリーたちは三太夫と同じくアンドロイドの身体を借りて永遠の命を得たと人間の誰もが確信している」
ホーリーよりもRv26が驚く。
「そこまで把握していなかった」
「それは大統領退任後に人間が勝手に想像したことだから仕方がないことだ」
ミトが残念そうにホーリーとRv26を見つめる。
「まず、その誤解を解く必要があるが、時間がない」
「いや、なんとかできるかもしれない」
[695]
***
一時戦闘状態にあった人間の、そしてアンドロイドの地球連合艦隊がひとつになるとミトが最高司令官に就任した。
ミトの連合艦隊の旗艦にサーチたちを乗せた時空間移動装置が到着する。ホーリーの無言通信でミトのことを知ったサーチが艦橋に現れるとあいさつもせずにミトに近づく。
「キャミはいつ死んだの?どこで?死因は?」
「心労が重なってある日眠ったまま亡くなりました」
この言葉に一番驚いたのは何も聞かされていなかった四貫目とお松だった。もちろんミリンやケンタも驚いて声も出せない。一瞬の間を置いてホーリーが割って入る。
「余り思い出したくない過去だ。そっとしてやろう」
しかし、サーチの気持ちは収まらない。
「でも、ミトは生きている。キャミと共に永遠生命保持手術の効果を失ったはずよ」
サーチをいさめたホーリーもミトに聞きたいことが山ほどある。意外とあっさりとミトが応じる。
「キャミは年老いたが、私に生命永遠保持手術を施した。亡くなるほんの一日前だった」
「どこで?地球には手術する設備がないわ」
「月です。廃墟と化した月の生命永遠保持センターの本部です。キャミは手術に使う器具や設備を器用に修理しました。私も手伝いました。それは困難な作業だった。でも楽しかった……」
[696]
ミトの目がうるむが決して悲しそうな素振りは見せない。むしろ懐かしさを楽しんでいるようにも見える。
「……私に生命永遠保持手術を施した。見事成功した。そして息を引き取った……」
泣き出したのはサーチだった。ホーリーがサーチを抱きしめるとミトが静かに告げる。
「この艦橋で今から作戦会議を始めます」
ホーリーの胸の中で顔を埋めていたサーチがぴーんと背筋を伸ばしてミトを見つめる。
「ごめんなさい。地球のために私は命を投げだします。さあ会議を始めましょう」
一気に連帯感が高まる。作戦さえ間違わなければ、つまり数は少ないがミト、ホーリー、サーチたちが結束すれば不可能なことはないような雰囲気になる。すぐさまミトが作戦のたたき台を披露する。
「生命永遠保持手術を受けて永遠の命を得た人間、つまり私たちが全面的に今の人間に希望を与える。一方でアンドロイドの協力を得て廃墟になった月の永遠生命保持センター本部を改修して復活させる。そこで生き残った人間に手術を受けさせて……」
「待ってくれ。誰が手術するんだ」
ホーリーが異議を申し立てるとミトがすぐ言葉を繋ぐ。
[697]
「キャミが手術方法の図解入りの解説書を作成していた」
「だから誰が手術をするんだ。地球の医者は紫花粉症の対応に追われて、しかも感染して数十人もいないという報告を受けている」
「確かに。生命永遠保持手術は高度な医療技術を身につけた医者でないと無理だ」
「いくら詳細な解説書をキャミが作成してくれても、ぶっつけ本番で手術できる医者はいないだろう」
「ホーリー」
サーチがホーリーとミトに近づく。
「何か忘れていること、ないかしら」
「?」
「リンメイ」
「リンメイ?あっそうか」
「それに……」
サーチが胸を張るとホーリーが気付く。
「サーチも生命永遠保持手術の達人……だった」
「そうね。達人だったのは大昔の話ね。ところでキャミの解説書、どこにあるの」
浮遊透過スクリーンにその解説書の前書のページが映される。サーチが黙って文字を追う。
[698]
しばらく沈黙した後、感激に満ちた言葉を発する。
「まるで私に声をかけているような前書だわ」
そしてリモコンで目次を飛ばして複雑な図面が書かれたページをゆっくりとめくる。
「さすがキャミ。将軍職や大統領職について現場から何百年も離れていたのに手術方法を完璧に記述している。正直言って今すぐ生命永遠保持手術をしろと言われても自信はまったくないけれど、この解説書があれば完璧に手術を成功させることが可能だわ」
ミトがサーチに近づく。
「これがペーパーにした解説書です。さて、今や永遠生命保持手術は伝説に過ぎない。紫花粉に感染していない数少ない人間を救うために永遠生命保持手術のことをどのように説明すればいいのか」
ここでサーチの腕を取って引きよせるとホーリーがミトを見すえる。
「確かに人間は右往左往して理性を失っている。それに三太夫のまやかしで人間はアンドロイドの身体がなければ生きていけないと思い込んでいる」
「今、生命永遠保持手術を受ければ死ぬことはないと宣伝しても誰も信用してくれないってことかしら。それに手術を受けても紫花粉に感染しないとは限らないわ」
「でも、このままでは人類は確実に滅亡する」
「ましてやアンドロイドの身体を欲しがっても誰も貸してくれないわ」
[699]
ミトがダメを押す。
「かといって紫花粉症から逃れることは不可能だ」
生命永遠保持手術を伝説としか思わないばかりか疑う人間の意識をどのようにして変えるのか。そしてアンドロイドの身体を使って命を永らえることは倫理上許されないことをどう伝えるのか。その上でアンドロイドから最善の協力をどのようにして確保するのか。
これらの作戦がうまくいけば、リンメイとサーチの出番となる。
***
残念ながら作戦は成功しなかった。余りにも時間が流れすぎたからだ。ホーリーたち、永遠の命を持つ人間と、まったく予期できなかった紫花粉に感染して死に至る人間とに共通点はない。目の前の恐怖に理性的に対応できないばかりか、逆に暴力に頼るようになる。
「何が生命永遠保持手術だ。デマに決まっている」
「俺たちを生命永遠保持センターと称する月の施設に隔離しようとしている」
「もっともらしい理屈を並べているが、地球連合艦隊の宇宙戦艦でぬくぬくと生きている司令官や乗務員に俺たちの気持ちが分かるはずがない。アンドロイドに騙されているのだ」
「騙されているというより加担しているのかもしれない」
「とにかくアンドロイドを捕虜にして脳を移植するしかない」
[700]
人間だけではない。地球にいるアンドロイドもうさんくさい話だとミトを疑うどころか説得するために開かれた説明会場を襲撃する。やむを得ずRv26がその混乱を押さえるとますます疑念が深まる。
「ダメだ」
再び宇宙戦艦で地球上空に退避したミトやホーリーたちは事態の困難性に当惑する。
「しかし、なんとかしなければ」
「このままでは人類は滅亡するわ」
「アンドロイドの反撃が始まった」
始めは人間の攻撃を避けていたが、耐えかねてアンドロイドが反撃する。
「最悪、紫花粉に感染する前に人間を攻撃するのだ」
アンドロイドは紫花粉に感染しても死ぬことはないが、性別を失うことになると人間に寄生されるかもしれない。それは性に目覚めて生きる喜びを経験したアンドロイドにとって絶対に許されないことだった。
一方、地球連合艦隊に所属する人間に動揺が広がる。すでに地球上の人間は紫花粉症とアンドロイドの攻撃で壊滅的な状況になっていた。
「ミト司令官。このままでは」
「分かっている」
[701]
しかし、ミトは地球連合艦隊が再び人間とアンドロイドに別れて対峙することだけは避けたかった。マイクを持つと連合艦隊のすべての乗務員に告げる。
「辛いがここは我慢するしかない。我々は絶対に分裂してはならない」
そのとき悲痛な声が上がる。
「あれを見てください!」
浮遊透過スクリーンに映る地球の一角にキノコ雲が現れる。
「核兵器を使ったな!」
すぐ地球に戻って孤軍奮闘するRv26から連絡が入る。
「千年以上も封印された原爆が投下された。人間はやけくそになっている」
誰よりも驚いたのはサーチだった。
{リンメイ!}
地球で住職と一緒にワクチンを造るために紫花粉を採取していたリンメイから無言通信が返ってくる。
{サーチ!大変なことになったわ}
{原爆でしょ!}
{そう!作業を中止してノロの惑星に戻るわ}
{それが賢明だわ}
[702]
サーチが胸をなでおろすと無言通信の内容を報告する。
一方、ミトは浮遊透過スクリーンを見上げながらRv26に確認する。
「原爆を投下したのは人間に間違いないのか」
「残念ながら人間だ。大昔に解体されなかった核兵器の封印を切った」
ミトが拳を握ると振るわす。
「やむを得ん。核兵器貯蔵庫を攻撃する。Rv26正確な位置を教えてくれ」
「すでに情報を送信した。核兵器貯蔵庫の封じ込めは成功するだろうが、問題は携帯核兵器だ」
「携帯核兵器を持ち出したのか?」
「数はしれているが、地球を汚染するには十分な量だ」
「なぜそんなことを」
「紫花粉を一掃するためだと」
「バカな。今度は放射能で死ぬだけだ」
「もう人間には理性のかけらも残っていない」
「そこまで追いつめられたのか」
ここでRv26との通信を切ってミトがホーリーを見つめる。さすがの知将ミトもなすすべがない。ホーリーがミトからマイクを取りあげる。
[703]
「司令官の地位では言い出しにくいだろうが、Rv26に任せるしかないな」
ミトが頷くとホーリーがマイクのスイッチを入れる。
「Rv26」
「ホーリー」
「あくまでも俺の私見だが、Rv26に地球を任せる」
「どういうことです」
「核兵器を使う者はすべて抹殺しなければならない。俺たちはノロの惑星に行く」
「待ってください」
「すまない。アンドロイドの手で地球を、地球の自然を守ってくれ」
マイクのスイッチを切るとミトに返す。
「よく言ってくれた。私からは絶対に言えないことを」
「残念だな」
ミリンが声をあげて泣き崩れる。
***
アンドロイドの宇宙戦艦に持ち込んだビートルタンクとクワガタ戦闘機の使用方法の説明が終わると、ホーリーが一息入れる。
[704]
「何か質問は?」
「よく分かりました」
地球連合艦隊のアンドロイドの司令官以下兵士がホーリーに深々と頭を下げる。付き添っていたサーチがそんなホーリーに声をかける。
「でもゲリラ戦を展開する人間の核攻撃をビートルタンクやクワガタ戦闘機で防げるの?」
「宇宙戦艦でゲリラ戦を制することは不可能だ」
「そんなこと分かってるわ!」
「ビートルタンクなら放射能はもちろん核兵器にも十分耐えうる。クワガタ戦闘機は空中からビートルタンクを支援するために必要だ」
「ビートルタンクってすごいのね」
ホーリーはサーチとの会話を打ち切ってアンドロイドの司令官の手を握る。
「Rv26にくれぐれもよろしく伝えてくれ」
「了解しました」
「それじゃ」
ホーリーとサーチはビートルタンク横の時空間移動装置に乗り込むとミトが待っている宇宙戦艦に戻る。そして艦橋に着くと浮遊透過スクリーンにアンドロイドの宇宙戦艦が次々と地球を目指す光景が映る。
[705]
「残念だな。こんな結果になるなんて」
ホーリーに返事もせずミトが目を閉じて一言発する。
「ノロの惑星へ」
「ノロタンには報告したのか」
ミトは頷くだけで再び命令を下す。
「時空間移動開始」
***
紫花粉症で人口を減らしたとはいえ人間の抵抗は激しい。原爆を落とし、そして携帯核兵器を手にした人間に対してアンドロイドも手加減なしに攻撃する。しかし、いつ携帯核兵器が使用されるのかという恐怖感から総攻撃できない。人間が仕掛けたゲリラ戦に苦戦する。
ある山間部での戦闘中、上空に四台のビートルタンクが現れると羽を広げる。そして羽ばたくと砲塔を地面に向けて降下する。
「この辺りの岩山に核兵器貯蔵庫があるはずだ。クワガタ戦闘機隊!探索しろ」
ビートルタンクの指揮を執るアンドロイドのチーフが命令する。
「了解」
「こちらは携帯核兵器を持った人間を攻撃する」
[706]
――なんとか携帯核兵器を使用する前に全滅に追いつめなければ
「人間発見!人数は五人。背中に携帯核兵器を背負っています」
「攻撃!」
ビートルタンクの先端が左右に分かれた砲身の真ん中から粉のような光線を発射する。携帯核兵器を構える人間の指が安全装置解除レバーを抜いて発射ボタンに移るが、一瞬にして兵器ともども蒸発する。
少し離れたところでその光景を見ていた人間が携帯核兵器を構える。すぐさま近くにいた別のビートルタンクが攻撃する。なんとか間に合ったようだ。そのときクワガタ戦闘機のパイロットから連絡が入る。
「まだ、いる!携帯核兵器を持っています」
「位置は?」
「レーザー機関砲で攻撃します。そちらで位置確認願います」
クワガタ戦闘機の機首にある左右に開いた黒い角が閉じて接触すると強力な光線が地上に向かう。それだけでも大きな打撃を与えるが、当たりどころが悪ければ携帯核兵器が核爆発を起こす可能性もある。すぐさまビートルタンクからの光線が追い打ちをかける。
「ふー。間に合ったか」
残りの人間たちは抵抗することを諦めて必死になって下山する。岩場が多くて身を隠せない
[707]
山間部から麓の森林地帯を目指して転がるように走り出す。
「先回りする。森林地帯に潜り込まれたら空から攻撃できない」
チーフが危機感を募る。
「地上部隊!緊急態勢を取れ」
すぐさま地上部隊が反応する。
「全部隊を投入!発見次第位置情報を送る」
「頼むぞ!」
「了解!」
[708]