承前


 財務省を筆頭に防衛省や地方の教育委員会などで文書の隠蔽改竄が流行している。財務省では事務方トップの福田淳一事務次官がセクハラで辞任、国税庁長官の佐川宜寿も森友学園国有地売却問題で辞任と他の省庁などを寄せ付けない単独トップを独走中だ。それは財務書が他省庁より強固な権限権力を有しているからだ。


 財務省の中でも国税庁は最大の組織である。職員の数は約五万六千人で財務省全職員の約八十パーセントを占める。ところが職員のほとんどがノンキャリア組といって下級官僚だ。ちなみに前出の福田淳一や佐川宜寿はキャリア組といって採用人数は年数十人(年によっては二十人を下回る採用しかない場合もある)の超エリートだ。国税庁の下部組織の国税局や税務署に石を投げてもキャリア組に当たることは宝くじを当てるより難しいだろう。


 このように少人数のキャリア組の管理下にある税務署だが、現場である税務署は国税庁から見れば遙か彼方にあるから税務調査の実態など分かるはずもないし知ろうともしない。一方ノンキャリア組のうち国税局でキャリア組に接する一部は何をすればキャリア組が喜ぶのかを知っている。もちろんどこの組織にもある話だが、省庁には独特の「忖度」という慣例が音も立てずに流れている。この流れに気付かないで深みにはまると溺れる場合があるので恐ろしい。


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 筆者は税理士である。民間企業を経て国税職員として国税不服審判所や税務署に身を置いた。税務署勤務時は主に相続税や土地の譲渡所得税の調査をしたが、審判所では行き過ぎた調査で不利益を被った納税者の救済に当たった。

 

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この矛盾する職務を経験したので「それでは」と辞職して税理士となった。


 国税庁というのは警察庁と並んで権力を持った組織だ。会社にたとえれば独占巨大企業だ。俗に四つ目という組織がある。「役所」の「所」ではなく末尾を「署」と書く組織である。警察庁の地方組織である警察署。消防庁の地方組織である消防署。労働基準監督署は厚生労働省所管で職員は国家公務員。国税庁下部組織である税務署の職員も国家公務員だが警察官と消防士は地方公務員だ。ちなみに四つ目は四つかと言えば五つある。もう一つは森林管理署(旧営林署)だ。


 さて税理士というのは「先生」と呼ばれて書類を見ながらソロバンをはじいて計算書や申告書を作成する気軽な商売だったらしい。しかも毎月顧問料がきちんと入ってくるから生活に困らない。その上顧問先から飲食やゴルフの接待もある。


「先生!ナイスショット!」


 そう思って税理士試験を受ける人が多いと聞く。確かにそういう面はある。結論から言うと顧問先次第だが、このことは後で説明する。


 しかし、国や都道府県や市町村は星の数とは言わないが様々な税金を取り立てようとする。もちろん法律に基づいて課税する。その法律は国民や住民の選挙で当選した議員が造ったものだから当然守らなければならないが、複雑でよく分からない。これらの税に関する執行者は専門家集団だから太刀打ちするのは難しい。

 

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そこで税に詳しい税理士が登場する。「詳しい」と言ったが素人より少し詳しい程度で税目に特化した税務署員や地方公共団体の税務課の職員から見れば大したことはない。そこはそこ。退職した公務員が税理士として幅をきかすことになる。幅と言うが守備範囲は狭い。


 いずれにしても税金は払いたくないものだが、きちんと支払って経営に集中する人も少なからずいる。しかし、侮れない数になる。


 さて毎月顧問料を払ってくれるのは会社の方が多い。もちろん個人企業より規模の小さな会社も多いが、きちんと帳簿を付けなければならないので付き合いが深くなる。事業を拡大しなければ法人組織にした意味がない。税金をコストと認識してキチンと申告納税して経営に邁進する方が得策と考える経営者は結構いる。でも悲しいかな納税で資金ショートすることもある。ここで本来の気持ちを忘れて脱税に走る場合も多い。資金繰りもアドバイスしながら正しい申告納税させなければならない。


 さて日本の会社は二百万とか三百万社と言われるが、そのうちの一パーセントの会社にきちんと税金を支払う経営者がいるとすると少なくとも二万社になる。小さな事務所を構える税理士にとっては大きな会社は相手にしてくれないが小さな会社が九割あるとすると順法精神が高く経営者としても能力の高い中小企業は一八万社もあることになる。これを四十七で割ると約四千。四十七は都道府県の数だ。平均して一都道府県に非常に質のよい会社が平均四千社あることになる。

 

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 税理士業は自由業だ。何が自由かというと顧客を選ぶ自由があるということ。例えば医者が患者を選ぶことはできない。納税意識の低い者を諭すことは必要だが、そういう者を顧客にする必要はない。啓蒙活動は税務当局の仕事だ。


 税務相談、税に関する広報、指導、そして税務調査の四大任務を税務当局に課されている。最後の税務調査という権限は税理士にはない。それ以外は税理士にもできるが、圧倒的に多いのは税務相談だろう。広報は税理士会がするとしても知れている。指導はもっと少ない。


 税務当局と税理士に共通する仕事は正しい納税額を計算して納付させると言うことである。しかし、如何せん税務当局は納税額を高く計算しようとする。他方、税理士は顧客の要望もあって低く計算する可能性が高い。


 特例や事実関係などで正しい税額が何通りかになることはあるが、原則正しい税額はひとつだ。つまり間違いは許されない。当局は権力があるから間違っても「ゴメン」で済むが、税理士はそうはいかない。


 さて話を戻す。


 きちっと計算するための勉強は当然必要だ。そしてきちんとしたい納税者も数少ないが必ず存在する。先ほど説明したとおり会社で言えば各都道府県平均で四千社ある。ミスマッチが九十九パーセントだとしてもいい会社は少なくとも四〇社はあるはず。それだけあれば事務所として十分やっていける。

 

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 これ以外の会社は顧問先を増やしたい税理士や自己研鑽しない税理士に任せればいい。いい加減な顧問先を増やせば増やすほどその顧問先から紹介される納税者の質も悪い。一方納税意識の高い顧問先の紹介はいい納税者が多い。


 幸い私の事務所の顧問先は納税意識が高い。申告もお任せが多いし、税務情報は絶えず流す。そして指導には従ってくれる。問題は税務調査だ。その税務調査も少ない。十数年まったく調査を受けない顧問先もある。そういう意味では税務調査を受けた経験が少ない税理士かも知れない。理不尽な調査もあったが、結構面白い調査もあった。


 以下、税務調査の実話を披露することにする。

 

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