第二章 戦闘


【時】永久0215年(前章より約200年後)
【空】完成第十二コロニー
【人】瞬示 真美 ホーリー (サーチ)


***

「伏せろ!」


 轟音とともに強烈な青い光が瞬示の目の前で炸裂する。それなのに意識がはっきりしない。

「助っ人さんよ!武器は?」


 すぐそばで再び男の声がする。


「武器?」


「身体が光っている!何とかしろ!」


 男の言うとおり瞬示の身体がピンクに輝いている。


 上方から再び青い光線が弧を描きながら瞬示に向かってくる。とっさに男が瞬示の腕をとって光線の直撃を避けるが衝撃で吹き飛ばされてしまう。体勢を立て直した男が素早く瞬示を岩陰へつれこみ耳元で乱れた息をはく。

 

[28]

 

 

「敵は右手五、六十メートル」


 もうろうとして現状を認識できない瞬示が男の言葉の一部を復唱する。


「敵?右手?」


 暗闇の中、瞬示は自らの輝きで身体にフィットした深緑色の戦闘服の男を初めて認識する。


「なぜ光っている?蛍のマネはやめろ!」


 大きな爆発音が断続的にすると舞い上がる湧き出すチリがふたりの視界を遮る。


 男は戦闘服を着用していない瞬示に驚くと、瞬示が助っ人ではなく、やっかいな荷物だと知って落胆する。


「いよいよか」


 男のつぶやきのあと殺気に満ちた複数の人間の気配がする。それまで意識をコントロールできなかった瞬示が急に身体を起こすと、気配のする方向に突進する。


「待て!」


 男の声を無視して瞬示が十メートルほど飛び上がる。同時に瞬示の身体から敵の人数と同じだけのピンクの光線が発射される。


「何だ!」


 男が驚くのも無理はない。岩陰から身を乗りだすと地面には身体にフィットした紺色の戦闘服を身にまとった七、八人の死体が見える。着地した瞬示は両手で頭を押さえてその場にヒザ


[29]

 


から落ちる。


 男は倒れた敵の兵士の手からライフルレーザーを取りあげて瞬示に近づく。


「大丈夫か?」


 瞬示は応えることなく死体を見つめる。


「女……」


 瞬示のつぶやきを無視して男がとどめをさそうと倒れた兵士にライフルレーザーを突きつける。しかし、胸にあいた直径数センチほどの穴から土がこぼれているのを見て、引き金から力を抜くと信じられないという表情を瞬示に向ける。


「戦闘服を突き破っている!完全即死だ」


 一瞬、男の表情がゆるむが、どこからか機械音が聞こえてくると息を止めて神経を集中させる。


「戦車だ!」


 男はフラフラと立ち上がる瞬示の腕を引っぱって再び岩場の窪みに身を隠す。


「今度こそ正念場だ」


 瞬示にライフルレーザーを手渡そうとする。


「俺はホーリー」


 瞬示はライフルレーザーに目もくれずにホーリーを見つめる。


[30]

 

 

「俺達ふたりに戦車とは大袈裟な!」


 その声に瞬示は上体を起こすと機械音のする方向に顔を向ける。暗いが瞬示には近づく戦車がはっきりと見える。そして立ち上がると戦車に向かって人間とは思えないスピードで走りだす。


「おおい!」


 ホーリーと名乗った男が自制心を失って絶叫する。


 戦車の砲塔が回転する。しかし、その回転は瞬示の動きに追従できない。砲塔に向かって瞬示の身体から太いピンクの光線が発射される。一瞬にして砲塔を失った戦車はそのままダラダラと直進したあと爆発する。


「助っ人さんよ!」


 ホーリーが立ちすくむ瞬示を呼ぶがやはり返事はない。さほど遠くないところで別の戦闘が繰り広げられている。瞬示は顔をあげるとゆっくりだが確実にその方向に歩きだす。同時に瞬示の輝きがピンクから真っ赤へと身体の輪郭が見えなくなるほど強くなる。


「おーい」


 ホーリーが呼びかけるが、両手を広げてあきらめに似た仕草をしてから瞬示を追いかける。


***


[31]

 

 

「伏せて!」


 轟音とともに強烈な緑の光が真美の目の前で炸裂する。

「助っ人さん?武器も持たずにきたの!」


すぐそばで女の声がする。


「武器?」


「身体が光っている!何とかして!こちらの位置がまるわかりだわ!」


 真美の身体がピンクに輝いている。


 再び轟音を伴った緑の光線が弧を描きながら上方から真美を捕らえる。そばにいた女が素早く真美の腕を取って岩陰へつれこむとすぐ近くで爆発が起こる。誰かが激しい呼吸を繰り返しながら、あえぐように叫ぶ。


「敵は右手五、六十メートル」


「敵?」


 真美の意識はもうろうとしている。


「多分五人」


 暗闇の中、真美が発する輝きで首から足元まで身体にフィットした紺色の戦闘服を着用いた十数人の女が浮かびあがる。


「なぜ光っている!」

 

[32]

 

 

 リーダー格の女がジーンズ姿の真美に驚く。そのとき少し離れたところで断続的に爆発音がする。


 真美は向かってくる何人かの人間の足音を聞き分けると、突然、十メートルほど飛び上がって全身から五本の淡いピンクの光線を発射する。


「ウッ」と短い声と人間が倒れる音がしたあと、着地した真美がその場にヒザから落ちる。


 真美の攻撃を受けて倒れた兵士を見てリーダーが驚く。


「完全即死だわ!」


 その声を聞きながら真美は倒れた兵士の胸から流れ出す土をボンヤリと眺める。そのとき、かなり遠いところで強烈な爆発音がする。


「大隊長!戦車がやられた!まだいる!」


 その声に真美の身体がピクッと反応すると、力強く立ち上がって爆発音がした方へゆっくりと歩きだす。


「待ちなさい!」


 遠くから真っ赤な火の玉が近づいてくる。制止を無視して真美は輝きを強めると真っ赤に輝く。強烈な輝きのために身体の輪郭が見えなくなる。


 女の兵士は固唾をのんで真美と近づく真っ赤な火の玉を交互に見つめる。距離は二百メートルぐらい。すぐに二十メートルまでに縮まる。

 

[33]

 

 

 瞬示だ!輝きが強すぎて真美には認識できない。


 真美と瞬示が向かいあう。二十メートルほどの距離を保ったままふたりは動かなくなる。その中間地点でバチバチ音を立てながら真っ赤な光が炸裂する。とてつもないエネルギーだ。距離がこれ以上少しでも縮むと大爆発するかもしれない。


 瞬示を追ってきたホーリーが眩しさで思わず目を閉じる。すでに女の兵士はサンバイザーを着用している。


「記録装置の確認を!」


 大隊長の命令に透明なヘルメットをかぶった女がサンバイザーをあげて腕の小型モニターを確認する。


「正常に作動しています」


 瞬示と真美が発するエネルギーに女の兵士がビリビリと顔が裂けるほどの熱を感じて後ずさりしはじめる。そのとき対峙する瞬示と真美からではなく、上空から鈍い爆発音がして同時に大きな震動が起こる。


「あっ!」


 鋭い閃光が多数発生すると、はっきりとした光と影がパルス信号のように地表に現れては消える。


「サーチ大隊長!」

 

[34]

 

 

「時空間移動装置が!」


 次々と女の兵士が叫ぶ。数百メートル上空にいた青い球体と宇宙フリゲートが連続して爆発する。直径五メートルほどの青い球体は「時空間移動装置」で、大隊長サーチが率いる女の軍隊はこれに乗りこんで男の軍隊の支配下にあったこの完成第十二コロニーに進軍した。宇宙フリゲートはその攻撃を支援するために戦車や武器を運んできた。


 女の軍隊は突然の出来事に声も出ない。ホーリーも口をポカンと開けたまま上空を見上げる。粉々になった時空間移動装置や宇宙フリゲートの残がいが落ちてくる。地上は二重の硬化ガラス製シェルターに包まれている。その外側のシェルターに遮られた残がいが不気味な音をたてる。


 いつの間に現れたのか、その上空に薄い黄色に輝く大きな球体が浮かんでいる。


「あれは?」


「かなり大きい!」


「透明感がある」


 うろたえる部下を大隊長のサーチがいさめる。


「戦闘態勢を維持。冷静に対処!」


 全員ライフルレーザーを黄色い球体に向かって構える。


「指示あるまで撃つな」


[35]

 

 

 しかし、黄色い球体は縮みながら二重のシェルターを難なく通過して瞬示と真美に近づく。直径三十メートルそこそこまで縮小した黄色い球体は真っ赤に輝いたままじっと対峙する瞬示と真美を一瞬にして包みこむと強烈な赤い輝きを吸収してまわりを黄色一色の世界に変える。女の兵士は金縛りあったようにまったく動けない。サーチも命令するも忘れて呆然と見つめるが、すぐ我に返ると大声をあげる。


「撃て!撃て!」


 女の軍隊のライフルレーザーの銃口が黄色い球体に向けられたとき、ホーリーがたったひとりで猛烈なスピードで女の軍隊に近づくと至近距離で両脇に抱えた二丁のライフルレーザーを連射する。急な事態に慌てて女の兵士がライフルレーザーを構えるが、ホーリーの正確な射撃にたじろぐばかりで反撃できずに次々と倒れていく。辛うじて伏せたサーチがライフルレーザーを構えるが、ホーリーとの距離が近すぎて照準できない。


 いつの間にか黄色い球体が消えて周辺は再び薄暗い世界に戻っている。仁王立ちしたホーリーがライフルレーザーの銃口をサーチの胸に押しつける。熱を帯びた銃口から「ジュッ」という音がして戦闘服から白煙があがると異臭が鼻をつく。サーチとその近くで難を逃れた女の兵士にホーリーが命ずる。


「ライフルを捨てて手を頭の上に」


 ホーリーは用心深くまわりを見つめる。苦しそうなうめき声がしばらく聞こえるがすぐに静

 

[36]

 

 

寂が訪れる。両手を挙げた女ふたりの背中にライフルレーザーを突きつけながらホーリーは瞬
示と真美が消えた周辺や上空を確認するが、瞬示も真美、そしてふたりを包みこんだ黄色い球
体も見あたらない。


***

「もう一歩で、この完成第十二コロニーを落とせたのに残念だったな」


 ホーリーがニヤリと笑うとライフルレーザーの銃口を下げる。


「さて、何とかここから脱出する方法を考えようじゃないか?」


 無言のままサーチは威厳を保とうと背筋をピーンと伸ばしてホーリーをにらみ返す。

「まだわからないのか?この完成第十二コロニーには俺達しかいない」


 サーチともうひとりの女の兵士はホーリーのこの言葉に現状をしぶしぶ認識する。


「それに、おまえ達の時空間移動装置はすべて消滅したし、俺達の時空間移動装置はすべて破壊されてしまった」


「わかった」


 やっとサーチが応える。


「俺はホーリー、表向きは光学無線技師の専門家だ」


「私はサーチ。完成第十二コロニー攻撃隊長」


[37]

 

 

「隊長か!俺は大物を捕虜にしたことになるな。勲章ものだが……。おまえは?」


 ホーリーはにこりともせずにもうひとりの女に視線を移す。その女は背中の鞄をしゃがみ

 ながら降ろすと、上目づかいでホーリーをにらむ。


「コーマ」


「よし、サーチ、コーマ、ここを脱出するまで休戦だ」


「わかったわ」


 サーチがきっぱりと応えるとホーリーはライフルレーザーを投げだす。すかさずしゃがみこんでいたコーマがレーザー銃を拾おうとする。


「やめなさい!」


 サーチが叫ぶより早くホーリーはコーマのみぞおちを蹴りあげる。コーマは腹を抱えてその場に倒れる。


「部下の指導が甘いな」


 サーチはホーリーに頭を下げながらコーマの横にひざまずく。


「大丈夫?」


 倒れたコーマのそばのレーザー銃に目もくれずにコーマを抱きおこす。


「信用してくれたようだな」


「バカにしないで!」

 

[38]

 

 

 サーチが立ち上がると足元のレーザー銃を蹴りとばす。

「おまえが腰に巻きつけた爆弾に気付かないとでも?」


 ホーリーは万が一何らかの形で攻撃されたら自爆するつもりでいた。恐らく半径数十メートル以内のものはすべて跡形もなく吹っ飛ぶだろう。


「さすが隊長だな。ところで、無線機はどこにある?」


「おまえが倒した兵士のなかに通信兵がいたはず」


 ホーリーは腰に巻きつけていた爆弾を取りはずして慎重に地面に置く。


「無線機が壊れていなければいいが」


「光波を中継していたフリゲートもやられたわ。通信は不可能よ」


 サーチの言葉にホーリーは薄ら笑いを浮かべる。


「中継は必要ない」


 ホーリーが倒れた数人の女の兵士に近づく。身体にフィットしていたはずの戦闘服がふやけたようにゆるんでいる。顔は醜い土色になって戦闘服の手足の部分から土がこぼれている。


「土に帰るとはよく言ったものだ」


 ホーリーは自分も死ねばこのような姿になってしまうのかと思うと神妙な気持ちになる。


「抵抗しないで」


 サーチはコーマにそう言い残すとホーリーのあとを追う。


[39]

 

 

「あれよ」


 サーチがホーリーを追い越して土となった通信兵の死体の前に立つ。ホーリーが乱暴にサーチを押しのけると、ヒザをついて湿り気が残った土に埋もれた無線機を掘りだす。そして丁寧に土を払うとすぐさま電源を入れる。


「無傷だ!正常に作動する」


 無線機に内蔵された小さなモニターが希望の輝きのように光りだす。サーチもホーリーの横でヒザをつく。


「モニターも無事だ」


 モニターの輝きでホーリーの顔がはっきりと見える。心にしみとおるような人なつっこい笑顔でモニターを見つめるホーリーにサーチは違和感を覚える。


 ふたりが無線機を持ってコーマのところに戻る。


「拡散ライトを持っていないか」


 コーマがうなずくと腰のバンドにつけていた球形のライトを手にする。


「ワンチャンスしかない」


「どうするの」


 サーチにはモニターの輝きを希望の光と感じる理由が見いだせない。


「改造して、出力を何万倍にして送信する」


[40]

 

 

「ワンチャンスなら、おまえの味方にだけ通信して終わりということか」


 サーチが話が違うという調子で詰問する。

「だから、バカだ」


ムッとしてサーチが立ち上がる。


「暗号は使わない。とにかく送信するだけだ。それに暗号を使えば送信データの量が増えるだけだ」


 ホーリーは器用に無線機を分解しはじめる。


「よく考えろ」


 サーチは何と応えていいかわからないという表情をして、再びヒザをついてホーリーの手元を球形拡散ライトで照らす。


「あのふたりのことだ」


 サーチがハッとしてライトを落としてしまう。


――そうだ!何としてもこの事件を報告しなければ


「ちゃんと持っていろ!そのためにおまえ達を殺さなかったんだ」


「あの強烈なエネルギー……」


 サーチは慌ててライトを拾うと持つ手を引きしめる。


「こんな話はどうだ。仮に俺達が無人の惑星に流れ着いたとして、救助される見込みもないと


[41]

 

 

したら、協定を結んでもいいんじゃないか」


「ここは協力するしかないのね」


「やっとわかったか」


 ホーリーがサーチに笑顔を向けたときライトの光が弱くなる。サーチは返事をせずにコーマの様子をうかがう。


「ライトを探してくるから、ここでホーリーの手元を照らして」


「物わかりが良くなってきたな。仲良くやろうと思えばやれるのに」


 ホーリーが小さく笑う。サーチは何も言わずに立ち上がると土となった仲間の兵士のところに向かって歩きだす。


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