第五十九章 証拠隠滅


【時】永久0288年

【空】地球ノロの惑星

【人】キャミ ミト カーン・ツー 住職 Rv26

   フォルダー イリ MY28 MA60

 

***

 

 フォルダーの奇抜な作戦が成功すると、地球に戻った人間と地球から脱出できなかったアンドロイドの間の溝が少し埋まる。このチャンスをなんとか生かそうと大統領執務室にキャミ、ミト、カーン・ツー、ホーリー、サーチ、住職、リンメイ、Rv26が集まって善後策の協議を始める。

 

「アンドロイドは圧倒的に少ない」

 

 カーン・ツーが切りだす。

 

「だから大事にしなければならないのよ。フォルダーの真意がわからないの」

 

 キャミが疲れたような声を出す。カーン・ツーはキャミの言葉に反論したい気持ちをかろうじて抑えて、できるだけ冷静に言葉をつづる。

 

「今までの何倍もアンドロイドを働かさなければ、我々は生きていけません」

 

「まだ、そんなことを言ってるの。あくまでも手伝ってもらうだけで、自分たちでできることは自分たちでするのです。まず、食糧の確保を考えましょう」

 

[158]

 

 

 カーン・ツーが黙ってしまうとミトがキャミに提案する。

 

「とりあえず、今までの出来事を人間やアンドロイドに伝えるための広報活動をする必要があります」

 

「そのとおりだわ。とにかく安心させなければ。カーン・ツー、放送の準備にかかりなさい」

 

 キャミの命令口調にカーン・ツーが反発する。

 

「いつ大統領に復帰したのですか」

 

「だったら、あなたが今後の方針を明確に伝えなさい」

 

「どっちにしたって、空腹で疲れ果てています。すぐアンドロイドに食事の用意をさせます」

 

 Rv26がカーン・ツーに向かって静かに口を開く。

 

「わかりました。非常事態であることはよくわかります。しかし、ワレワレも今度の事件で長らく身体の整備をしていません。地球では毎日整備が必要なのですが、もう何日もしていません」

 

「機械がそう簡単に動かなくなるはずはない」

 

「ワレワレは精密機械です。サビが回ると回線がショートしたり、そのサビが食品に混在して食中毒を起こすかもしれません。酸素は人間にとって大切なものですが、アンドロイドにとっては毒のようなものです」

 

[159]

 

 

「カーン・ツー、Rv26の言うとおりだわ。まだわからないの。アンドロイドなしには人間は生きていけないのですよ。アンドロイドを大切にしなければなりません」

 

 そばでキャミとカーン・ツーの会話を黙って聞いていた住職とリンメイがカーン・ツーに落胆する。そのカーン・ツーに向かって住職がさとすように口を開く。

 

「海賊だといっても食料の手当をしてくれた。節約すれば二、三日はしのげる」

 

「ヤツラの星に上陸させてくれさえすれば、こんな事にならずに済んだものを」

 

 あくまでもカーン・ツーはわがままな発言を続ける。

 

「もし、首尾よく上陸できたとしても、一万人程度の人口の星で一千万人分もの食料が確保できるわけがないわ」

 

 サーチもカーン・ツーをたしなめる。カーン・ツーがムッとして黙ってしまう。

 

「まるで、だだをこねる子供みたいだ」

 

 ホーリーが横を向いてふくれるカーン・ツーから視線を背ける。

 

「説法で人間を働かすのは骨の折れる仕事じゃ」

 

 さすがの住職もフーッと息を吐きだす。

 

***

 

「地球に残ったアンドロイドが危ない」

 

 フォルダーはノロの惑星のアンドロイドに今回の作戦とそのてんまつすべてオープンにした。

 

[160]

 

 

しかし、地球にいる人間とアンドロイドの間によい兆しが見えない。

 

「残りのアンドロイドを脱出させるか、人間を殺すしかない」

 

 造船所に集まって議論するアンドロイドから過激な発言が飛びだす。

 

「別に地球が必要ではないが、地球の同胞をなんとかしなければならない」

 

「まあ、待て。ワレワレは人間に教わらなければならないことが、まだまだある」

 

 フォルダーの行動をつぶさに見ていたMY28がなんとか過激な意見を抑えこもうとする。

 

「この星の人間は別として地球にいるような堕落した人間から学ぶものは何もない。感情を手に入れたのはノロのお陰だが、ノロも言ってたようにあとはワレワレが努力して進化すればいいのだ」

 

「なぜ、こんな事態になってしまったんだ?」

 

「この星では人間もアンドロイドも平和に暮らしているのに」

 

 フォルダーとイリが修理と改造を終えたブラックシャークの艦橋でアンドロイドたちの会話を聞いている。

 

「男と女の戦争が終わって高度に発達した巨大コンピュータとの戦いも終わったのに、今度は人間とアンドロイドが対立している。しかも人間に勝ち目はない」

 

 フォルダーの言葉にイリが悲しそうにうなずく。

 

「ノロが心配していたアンドロイドの世界になるのかしら」

 

[161]

 

 

「俺の作戦は間違っていたのか」

 

「そんなことはないわ。与えられたチャンスを生かすも殺すも人間次第。最悪の状態を脱したのに、なぜ、立ち直ろうとしないの!歯がゆいわ」

 

 フォルダーが艦橋を出る。

 

「どこへ行くの」

 

「造船所だ」

 

 イリは何も言わずにフォルダーのあとをついていく。

 

***

 

「MY28、それに造船所のアンドロイド諸君!ブラックシャークは完璧によみがえった。礼を言う」

 

 激論を交わしていたアンドロイドが全員フォルダーとイリに向かって敬礼する。

 

「俺は人間だぞ」

 

「いえ、地球にいる人間とはまったく違います」

 

「そうだ、ワレワレはフォルダーやイリを尊敬しています」

 

 打って変わったようにアンドロイドの言葉が高揚する。

 

「あんな作戦はワレワレには考えもつきません」

 

 誰かの発言にフォルダーが苦笑する。

 

[162]

 

 

「まだ、二日しかたっていない。もう少し、地球の様子を見よう」

 

「手遅れにならないでしょうか」

 

 MY28が代表してフォルダーに進みでる。

 

「Rv26に任せるしかない」

 

 MY28のうしろにいるアンドロイドが質問する。

 

「Rv26は旧式のアンドロイドだと聞いています」

 

「新型、旧型の問題ではない。Rv26は経験豊かなアンドロイドだ。それはさておき、地球の人間たちの態度がどのように変化するのか、今は見守るしかない。わかってくれ」

 

 フォルダーがアンドロイドたちに背を向ける。

 

「邪魔をした。議論を続けてくれ。いい考えがあれば、すぐ教えてくれ」

 

 フォルダーが背中でそう言うと歩幅を大きく取って歩きだす。イリは何も言わずに再びフォルダーのあとをついていく。距離を詰めずにイリがフォルダーにたずねる。

 

「次はどこへ行くつもりなの」

 

「ノロの家だ。あそこが一番落ち着く」

 

 意識的に歩幅を縮めたフォルダーにイリが追いつく。

 

 しばらくするとフォルダーとイリはうしろから自分たち以外の足音が聞こえてくるのに気付く。

 

[163]

 

 

「どうした?」

 

 フォルダーは振り返らずに足音にたずねるとMY28の声がする。

 

「フォルダーの言うとおり、しばらく様子を見ることになりました」

 

「そうか」

 

「全員、ブラックシャークがいつでも発進できるように最終チェックを始めました」

 

 やっとフォルダーが振り返る。MY28とMA60がフォルダーとイリを見つめる。

 

「苦労をかけたな。ところでどこへ行くつもりなんだ」

 

「多分、同じところだと思います」

 

「そうか」

 

「ノロの家で勉強したくなりました」

 

「そうね」

 

 イリがMY28とMA60にやさしく声をかける。

 

「ノロなら、この現実をどう受けいれるのかしら」

 

***

 

 イリはノロの家の展示室ではなく図書室を選ぶ。ノロの遺体がある展示室より図書室の方が落ち着くからだ。フォルダーとイリが向かい合ってテーブルに着く。それぞれの横に真似をするようにMY28とMA60が座る。

 

[164]

 

 

「ノロはブラックシャークでどこかへ行って、今までと違う人生を歩もうとしたのかしら」

 

 イリがあのころのノロに想いをはせる。フォルダーがイリに首を傾げるがイリは気付かない。

 

「次の人生でファーストキスできればいいのだが」

 

 フォルダーがイリにほほえみかける。

 

「この世界で私とすればよかったのに」

 

「なんでも器用にこなすのに、愛情表現だけは不器用なヤツだった」

 

「記憶も経験も消して次の世界へ行けば、またファーストキスできないかもしれないわ」

 

 イリがまだどこかでノロが生きているのではという非現実的な希望を持っていることをフォルダーは十分承知している。

 

「ノロはファーストキスよりもっとすごい感動を求めてさまよっているのかもしれない」

 

「それって、私に魅力がないということなの?」

 

 突然の質問にフォルダーはたじろぐ。

 

 MY28やMA60にはまったく理解できない会話が続く。フォルダーはふと瞬示と真美が興味を示したノロの展示室にある遮光器土偶のことを思い出す。

 

「遮光器土偶に何か引っかかるものを感じていたんだが、ノロを女にしたような感じがしないか?あの丸いギラギラしたメガネ、遮光器土偶の目とよく似ている」

 

「それは少しひどい表現だわ」

 

[165]

 

 

 フォルダーはイリの不機嫌な顔が自分に向いているのに気後れして、イリの喜びそうな言葉を探す。

 

「ひょっとしてアイツ死んだんじゃなくて、何かを調べるためにどこかへ時間移動したのかも……」

 

「えっ!フォルダーもそう思っているの?」

 

 イリはフォルダーの言葉が単なるなぐさめではなく現実的なものだと解釈する。フォルダーはイリの機嫌が戻るように耳ざわりのいい言葉を連発する。

 

「地球と同じ星を造るんだとよく話していたじゃないか」

 

「そうね。ほ乳類はもちろんのこと、今、この世界にいる未完成な人類ではなく、この宇宙に存在するにふさわしい人類が誕生する環境を整えるんだってよく言っていたわね」

 

 イリはいささか気をよくしたのかフォルダーに顔を近づけて次の言葉を待つ。

 

「地球の過去に移動して理想の人類を誕生させるにはどうしたらいいのか、勉強しに行ったのかもしれない」

 

 このフォルダーのでまかせだが、いい加減ではない言葉が決定的にイリの心を強く押して勇気づける。

 

「私、ブラックシャークが試運転から戻ってきたときの記録をもう一度調べ直してみるわ」

 

 イリが機嫌良く立ちあがるとそれまで敬遠していた隣の展示室に向かう。フォルダーも立ちあがってイリを追いかける。

 

[166]

 

 

さらにMA60も立ちあがってフォルダーとイリをじっと見つめる。

 

***

 

 フォルダーはMA60に遮光器土偶のことを調べろと命令したことなどすっかり忘れてじっと土偶を見つめる。

 

「見れば見るほどアイツに似ている」

 

 イリが再び不機嫌な表情をするが、返事をしないで端末を操作する。

 

「どういうのかなあ。全体の感じというのか……」

 

 フォルダーはイリに聞こえないような小さな声を出しながら、陳列ケースから遮光器土偶を取りだしてあらゆる角度から観察する。

 

「あっ」

 

 イリの小さな驚きの声にフォルダーが遮光器土偶をテーブルの上に置くとイリの横に立つ。

 

「これを見て!」

 

「時空間移動装置が一基と……」

 

 モニターには試運転後に戻ってきたときのブラックシャークの装備や備品でなくなった物のリストが表示されている。

 

「ほかになんだかわからないものが、いくつかなくなっている。あのときまったく気が付かなかったわ」

 

[167]

 

 

「アイツはブラックシャークに何を積みこんで試運転に出かけたんだ?」

 

「わからないわ」

 

「イリ」

 

「どうしたの?急に真剣な顔をして」

 

 フォルダーはブラックシャークが試運転から戻ってきたときの中央コンピュータの言葉を思い出す。

 

「イリ、覚えているか」

 

「何を?」

 

「試運転から戻ってきたあと、中央コンピュータはノロの遺体をしつこいぐらい『砂漠に埋めろと言われています』と繰り返し言っていたことだ」

 

「覚えているけれど……」

 

「なぜ砂漠なんだ!おかしい!」

 

 フォルダーが何かに気付くが自信はなさそうだ。

 

「気が進まないが、ノロの遺体を調べてみよう」

 

 イリは内心ノロの遺体を調べたかったが、それは禁断の行為だと思って口にすることはなかった。今、フォルダーの言葉に強くうなずく。

 

[168]

 

 

 フォルダーとイリがテーブルに近づくと中央に安置されたガラスケースをのぞきこむ。イリが顔をあげるとフォルダーにノロの遺体に貼られた「神聖」という名のレッテルをはがす宣言をする。

 

「DNA鑑定してみるわ」

 

 フォルダーは改めてイリを見つめるとあっさりと同意する。

 

「任せる」

 

「ここに鑑定装置はあったかしら」

 

「俺にはわからん」

 

「ちょうどよかったわ。MA60に聞いてちょうだい」

 

「わかった」

 

 フォルダーは隣の図書室に向かう。イリはテーブルの端からガラスケースに安置されたノロの遺体を見つめながら開閉ボタンを押す。

 

***

 

 イリは手術用の透明な手袋に指を通すと、ノロの遺体を傷つけるのが気がかりなのか足の親指と人差し指の間に先がハサミになった金属性の棒を差しこもうとする。

 

「そこはやめておけ」

 

「どうして?」

 

[169]

 

 

「アイツは強烈な水虫を持っていた」

 

「いやだわ」

 

 イリが驚いて金属棒を引く。

 

「生命永遠保持手術を受けていても水虫になるの?」

 

「アイツ、風呂嫌いだったからな」

 

「そうね。全身からニオイが出るまで風呂には入りたがらなかったわね」

 

 イリが苦笑いをしたあとフーッと息を吐く。

 

「じゃあ、手の指にするわ」

 

「普通は頭髪じゃないのか」

 

「凍結保存しているから髪の毛では正確に鑑定できるかどうか不安なの」

 

「任せる」

 

「MA60、鑑定装置で調べて」

 

 イリはノロの手の指の先を切り取った金属棒をMA60に手渡す。

 

「わかりました」

 

「私はノロのDNAデータを端末で探すわ」

 

 イリとMA60が手分けしてノロのDNAの解析作業を手際よく進める。しばらくするとMA60がイリに告げる。

 

[170]

 

 

「ノロのDNAデータを探す必要はありません」

 

 端末を操作していたイリがMA60の顔から目を離さずに近づくと鑑定装置のモニターに視線を移す。すぐさまフォルダーに向かって叫ぶ。

 

「私たち、完全にだまされていたわ!」

 

「なに!、どういうことだ!」

 

 イリがガラスケースの冷凍装置のコントロールパネルを操作する。

 

「これは土で作られた人形よ。その土偶と同じだわ」

 

「まさか!」

 

「ニセモノのノロをすぐ解凍するわ」

 

「俺たち、担がれていたのか」

 

 イリが目をつり上げてうなずく。

 

「そう言えばアイツにはよくだまされた。アイツは本当か冗談か見分けがつかないことを言うのがクセだった!」

 

 イリはうなずくと悲しそうに視線をガラスケースのノロに移す。

 

「生きているのかしら。もうあれから二百年以上もたっているのよ」

 

「中央コンピュータを絞りあげる!許さん!」

 

 フォルダーが大声で叫ぶと造船所に向かって全力疾走する。

 

[171]

 

 

***

 

「白状しろ!」

 

「なんのことですか」

 

「ノロのことだ」

 

 ブラックシャークの中央コンピュータ室に極度の緊張感がみなぎる。

 

「……」

 

 そこへイリが息を弾ませて現れる。

 

「あれは、ただの土の人形じゃないの!」

 

 イリは日頃の柔和な表情から想像もできないほど目を見開いて中央コンピュータをにらみつける。

 

「もう、時効です」

 

「時効だったらすべてを話せ!それともおまえを解体してデータを解析しようか」

 

「それだけはやめてください」

 

「じゃあ、吐け!」

 

「気持ちを整理する時間をください」

 

「人間みたいなことを言うな」

 

「ノロは今どこにいるの!生きているの!」

 

[172]

 

 

 イリの目に涙があふれる。

 

「わかりません」

 

「MY28!至急中央コンピュータ室に来い!」

 

 フォルダーの声が中央コンピュータ室に響きわたる。ここから発したフォルダーの命令は造船所に直結している。今度は低いがはっきりした言葉をフォルダーが続ける。

 

「MY28なら痛みを伴わないように解体してくれるはずだ」

 

「解体するのだけはやめてください」

 

「じゃあ、包み隠さずすべてを白状しろ。わかったな!」

 

「それは……」

 

「チューちゃん。あなた、ひょっとしてノロなの」

 

 フォルダーが驚いてイリを見つめる。

 

「それはないだろう。確かにしゃべり方が似ているところもあるが。それに……」

 

 イリはフォルダーの言葉を無視して、にらみつけながら念を押すようにたずねる。

 

「ノロなの」

 

「いえ。ワタシはノロに制作された量子コンピュータです」

 

「量子コンピュータだって!」

 

 続けようとした言葉を消去してフォルダーが一歩引く。

 

[173]

 

 

「こんなにコンパクトな量子コンピュータを製造するなんて不可能だ!」

 

「それじゃ、ノロは二台も量子コンピュータを造ったの?もう一台は確か前線第四コロニーの中央コンピュータだったわ」

 

「しかし、いくらノロでもこんなにコンパクトな量子コンピュータを製造できるのだろうか」

 

「裸になって身体の中を見せるわけにはいきませんが、ワタシは正真正銘の量子コンピュータです」

 

「ノロは興味あるものはなんでも造るわ」

 

 MY28が中央コンピュータ室に現れる。

 

「何かご用ですか」

 

 フォルダーが思い出したように大声を張りあげる。

 

「今の今まで知らなかったが、こいつは量子コンピュータなのか」

 

「そうです」

 

「本当に量子コンピュータかどうか解体しろ」

 

「えー」

 

 中央コンピュータとMY28が同時に叫ぶ。

 

***

 

「わかりました。白状します」

 

[174]

 

 

 ついに中央コンピュータが観念する。

 

「ノロは生きているの?」

 

 イリが身を乗りだす。

 

「それはわかりません。もう二百年以上も昔のことですから」

 

「さあ、約束だ。ノロのことを全部話せ」

 

「ブラックシャークの試運転でノロはどこへ行ったの」

 

 矢継ぎ早の質問に中央コンピュータが素直に返答する。

 

「当初のデータは残っていません。それどころかノロはワタシにデータの蓄積をさせないで、しかも順次データを消去するように設計していました。しかし、時空間をさまよっているうちに、いつの間にかデータの消去プログラムが解除され、データを蓄積できるようになりました。

 

多分、頭におさまりきれなくなったのか、邪魔くさくなったのでしょう。あっ、初めのころのデータが見つかりました」

 

「どこに行ったんだ」

 

「恐竜時代です」

 

「恐竜時代?なぜ、そんな時代に時空間移動したの」

 

「すぐに戻ってきたように見えたが、かなり長い間、過去に行ってたのかもしれない」

 

「死んだように見せかけて、夢を追うために時空間を旅していたのかしら」

 

[175]

 

 

 フォルダーとイリの予感は的中していた。

 

「ホーリーを呼ぼう」

 

「そうね。サーチも、いえ、全員呼んだ方がいいわ」

 

「あれから、地球がどうなったのかも聞きたい」

 

 ノロのわがままな試運転の謎が、今、解けだす。ニセモノのノロも溶けだす。フォルダーはその人形を見て「砂漠に埋めろ」というノロの遺言を思い出す。

 

「証拠隠滅だったんだ」

 

[176]