第七十二章 次元移動


【時・空】永久0289年・ノロの惑星
     ?年・六次元の世界
【人】瞬示 真美 フォルダー イリ ノロ ホーリー サーチ 住職 リンメイ
   五郎 ケンタ ミリン 四貫目 お松 Rv26 MY28 MA60


***


「イリ、少し時間をくれ。俺に考えがある。」


 フォルダーに生命永遠保持手術の準備作業を中断して艦橋に戻ってきたイリが無言でうなずく。


 造船所に到着したブラックシャークの横に青い時空間移動装置が不規則な回転を続ける。フォルダーとイリ、ホーリーとサーチ、住職とリンメイ、MY28とMA60の誰もが息をのんで時空間移動装置の回転が無事に停止することを祈る。


 やっと回転が停止してドアが跳ねあがると、勢いよくケンタとミリンが飛びだす。四貫目と五郎が無残なRv26の両脇を抱えて降りる。Rv26の衣服は焼けただれて人工皮膚もはげて、むきだしになった部品や配線からスパークする不気味な音が聞こえる。


「すぐ電源を切らないと危険です」

 

[532]

 

 

 MY28がRv26にかけよると乱暴に胸の中へ拳を突っこむ。スパークが消えるとなんとかRv26を抱えていた四貫目と五郎に全体重がかかってRv26もろとも腰からその場に倒れる。最後に時空間移動装置から降りたお松はなすすべもなく四貫目のそばに立つ。


「MA60!」


 フォルダーがMA60に向かって叫ぶ。すでにMA60は肩のマイクで連絡を取っている。MY28が四貫目と五郎にRv26から離れるように指示すると、機能が完全に停止したRv26を仰向けに寝かせる。


「MA60」


 再びフォルダーがMA60を呼ぶ。


「PC9821のチップセットを最新のマザーボードに装着してRv26に組み込め。そのほかの部品もすべて最新型のパーツを使って改造しろ」


 イリが驚いてフォルダーを見つめる。そのときMA60が首を傾げてフォルダーにたずねる。


「PC9821のチップセット?そんなチップセットは聞いたことがありません。PC9801の間違いでは?」


「黙って命令を実行しろ」


 造船所の隣の整備工場から数人のアンドロイドがいかにも頑丈そうな担架を抱えて走ってくる。Rv26の真横に担架を置いてRv26を載せると今度はMA60といっしょに整備工場に向かって走り去る。

 

[533]

 

 

フォルダーはまるでRv26を人間のように扱う自分をふしぎに思うこともなく、MA60の背中に向かって声をかける。


「Rv26の容体に変化が現れたらすぐ知らせろ」


 そしてイリの視線に気が付くとその視線から逃れるように五郎に語りかける。


「Rv26はここまで来るのが精一杯だったようだな」


 五郎が大きくうなずいて肩を落とす。そして自分の使命に気が付いて報告を始める。


「Rv26のお陰でなんとか地球を脱出できました」


 五郎の言葉にケンタ、ミリン、四貫目、お松が険しい表情のフォルダーを見つめて大きくうなずく。定員五人の時空間移動装置に六人も乗りこんでいたから、よほどの緊急事態が発生したはずだとフォルダーは確信する。


「Rv26は最後の力をふりしぼって人間とアンドロイドが全面戦争に突入したと報告しましたが、そうではありません。宗教戦争のような感じです」


 フォルダーとイリが首を傾げる。気落ちして足元を見つめる五郎に代わってケンタが説明を始める。


「宗教戦争というより、ある男が布教したことを信じる人間とアンドロイド、それを信じない人間とアンドロイドとの間で戦争が始まったのです」


 ホーリーが口をはさむ。

 

[534]

 

 

「ある男?最長か」


 同じくサーチが声をあげる。


「キャミやミトは?」


 ミリンがはっとして視線をケンタからサーチに向ける。


「それが……」


 ミリンが言いにくそうに言葉を切ると五郎が残念そうにつなぐ。


「行方不明です」


「無言通信は?」


 五郎、ミリン、ケンタがそろって首を横に振る。サーチはミリンに近づきながらキャミに無言通信を送る。ほぼ同時にホーリーもミトに無言通信を送る。


 ミリンが無言のサーチを見つめると抱きついて泣き出す。フォルダーは差しせまった危機を感じとるとMY28の顔を見つめる。


「ホワイトシャークを地球に向かわせる。MY28、すぐ準備にかかれ」


「わかりました」


 MY28がホワイトシャークに向かうと住職がケンタに近づく。


「殺し合うための宗教は宗教ではない。情けない話じゃ。ケンタ!詳しく話してくれ」


 ケンタが言葉を探すように考えこむと、サーチの胸で泣きじゃくっていたミリンが顔をあげて表情を引きしめると背筋をぴーんと伸ばして住職を見つめる。

 

[535]

 

 

「私が説明するわ」


 ミリンは住職の前に立つと濡れた長いまつげを上に向ける。


「ある男が人間やアンドロイドに説教していたのは『アンドロイドを改造して子供を産むようにすべきだ』ということだったわ」


「それはノロが悩んでいたことじゃ」


「人間もアンドロイドも子供を造って共存できる新しい世界を創造して、地球を繁栄させることをその男が説いて回っていたの」


「最長じゃ!その考えはそれなりの意味があるのう」


 リンメイが住職の袖を引っ張る。


「ミリンの話を聞きましょ」


「『アンドロイドの人口を増やさないと人間がやっていけないのはわかりますが、それはアンドロイドを製造すれば済むことです』とキャミはその男の意見に反対しました」


 サーチは報告の内容にも驚くが、ミリンが堂々とよどみなく説明する姿をまぶしく見つめる。


「でも地球にはアンドロイドを製造する設備はありません。完成コロニーのアンドロイドに相談することもできません。人間の生活を維持するだけのアンドロイドを確保するためにはアンドロイドに生殖機能をと考える人間が急激に増えました。一方、それに反対する人間や造った子供が人間の奴隷になることを恐れるアンドロイドがキャミとミトの元に結集しました。

 

[536]

 

 

そのうち武力による解決を望まないキャミが躊躇している間に、アンドロイドに子供を造ることに賛成する人間とアンドロイド、それに反対する人間とアンドロイドとの間に戦いが始まりました」


「そうなんだ。アンドロイドに子供が造れるのか、できるとすればどうすればいいのかというような現実的な論議はないまま、どんどん議論がエスカレートして、ついに戦争が始まった!」


 ケンタが珍しく大声を出す。フォルダーがイリにつぶやく。


「力で押さえるわけにはいかない」


 フォルダーは今まで体験したこともない事態に直面して苦慮する。それに鍵を握るノロはこの世界にいない。


「人間とアンドロイドの戦争ならなんとか仲裁もできようが、宗教戦争もどきの、しかも人間とアンドロイドが混じりあった戦争には手の打ちようがない」


 ホーリーもフォルダーの考えを強く指示する。住職が腕とあぐらを組んで目を閉じる。


「ホワイトシャークの出航準備ができたら、わしは地球に向かう」


 住職の言葉にリンメイがうなずく。


「アンドロイドが人間と対等になることに賛成する者と反対する者との戦争と言えるかもしれません。人間対アンドロイドではないのです」

 

[537]

 

 

 落ち着きを取りもどした五郎が住職に念を押すと、ホーリーが五郎にたずねる。


「勢力分布はどうなっている?」


「まったくわかりませんが、私の感覚では子供を造ることに賛成している者の割合はアンドロイドの方が高く、人間の方は低いような気がします」


「とにかく、現状を把握する必要がある」


 フォルダーがホーリーを見つめる。ホーリーは迷わずフォルダーの意をくみとる。


「俺も住職といっしょに地球に行く」


「わかった。ホーリーをホワイトシャークの船長に任命する。MY28を連れていけ」


「ホーリーが船長なら地球に向かう者は決まったようなものね」


 サーチがホーリーを見つめる。ミリンがサーチをそしてホーリーを見つめる。


「今度は父さんといっしょだ」


「我らも」


 四貫目の言葉にホーリーとサーチが首をたてに振って応える。その四貫目の横にいて、それまで黙っていた瞬示と真美が初めてフォルダーにたずねる。


「フォルダーはノロを捜しに行くんですか」


 フォルダーは瞬示の質問に答えずに太い両腕を組む。

 

[538]

 

 

「地球の危機をなんとかしなければならない」


 イリは何も言わずにフォルダーに近づく。真美がそんなイリを気にしてフォルダーに念を押す。


「フォルダーもブラックシャークで地球へ行くの?」


 フォルダーは真美にではなく、近づくイリに深くうなずいてからきっぱりと言う。


「ノロを連れてだ」


 イリの目が輝くと、フォルダーがイリの手を力強く握ってブラックシャークに向かって歩きだす。その後ろ姿をとまどいながら見つめる真美の手を瞬示が握ると真美を引きずるようにしてフォルダーとイリのあとを追いかける。


***


「お願い、早くノロのところへ」


 ブラックシャークの艦橋に着いたフォルダーの背中にいたたまれなくなったイリが哀願する。


「あせるな。おまえがあせると俺まであせってしまう」


 フォルダーはイリにというよりは自分自身に言いきかせる。


「ごめんなさい、フォルダー」


「心配するな。中央コンピュータがノロの行き先を押さえている。俺と中央コンピュータに任せろ」

 

[539]

 

 

 フォルダーは身近に相談できる実戦を積んだアンドロイドがひとりもいないことに一抹の不安を感じる。MY28はもちろんのことFA51もここにはいない。鍵穴星での激戦で人間以上の判断力を見せつけたRv26も改造中で動けない。


「イリ、Rv26の回復を待ってノロを探しに行くことにしてもいいか」


 意外にもイリが素直な言葉を返す。


「ブラックシャークの船長はフォルダーよ。私は船長の命令に従います」


 イリが艦橋から出ようとする。


「イリ、どこへ行くんだ」


「生命永遠保持手術設備の点検をします」


 フォルダーはイリの背中から瞬示と真美に視線を向ける。


「今の地球の現状をノロに伝えるとすればRv26の情報は非常に貴重だ」


「その意見に大賛成です」


 状況をつぶさに見ていた瞬示が真美に確認する。


「ノロの行き先を慎重に分析する必要があるわ」


 真美が追加する。


「真美さんのおっしゃるとおりです」


 中央コンピュータが真美に賛同する。

 

[540]

 

 

「説明しろ」


 フォルダーが中央コンピュータに命令するが、答えたのは瞬示だった。


「ノロのいるところへは時空間移動ではなく、次元移動しなければならないからです」


「次元移動?」


 フォルダーは誰にたずねるともなく、天井に言葉を放り投げる。


「ブラックシャークは次元移動ができるのか」


 瞬示と真美は中央コンピュータの反応を待つ。


「できるはずです」


 ふたりがまさかという表情をする。


「本当か!ブラックシャークが次元移動できるなんて、ノロから聞いたことがないぞ」


 フォルダーが反発に近い言葉を発する。


「多次元エコーという武器を持っていることからしても、ブラックシャークは次元移動できる性能を持っているのがわかりませんか?ワタシは六次元どころか百次元はおろか千次元、万次元、億次元の演算も可能です。ただし、以前六次元の演算をノロに頼まれたときに数日かかったことがありますので次元移動はとてもむずかしいかもしれません」


「何が言いたい!」


「ブラックシャークが次元移動できるとすれば、操縦はワタシしかできないのです」

 

[541]

 

 

***


「Rv26の改造はまだ終わらないのか」


「まだ、数時間は要します。そのあと新しい身体に慣れるまでかなりの時間が必要でしょう」


 アンドロイド整備工場からMA60の返事が入る。


「そうか。慣らし運転のことをすっかり忘れていた。やむ得ない。Rv26の乗船はあきらめる。MA60、Rv26が回復したら、いっしょにMY28に合流しろ」


 フォルダーががっくりと肩を落としてうつむく。そんなフォルダーにイリは初めて重大なことをたずねる。


「ノロの許可もなく、PC9821のチップセットをRv26に埋めこんだ理由は?」


 フォルダーが黙って顔をあげてイリを見つめる。しかし、フォルダーから出た言葉はイリへの回答ではなかった。


「ノロはなぜブラックシャークを使わずに丸腰で最長の誘いを受けたんだろう」


 イリがすぐさま反論する。


「丸腰じゃないわ」


「レーザー銃すら所持していなかった」

 

「いいえ、ノロは『考える』という強力な武器をいつでも持ち歩いているわ」


 フォルダーはそのとおりだと言わんばかりにイリに笑顔を向けると中央コンピュータに命令を下す。

 

[542]

 


「ブラックシャーク、ノロの惑星から離脱しろ!」


 ブラックシャークは音もたてずにドックから垂直に上昇する。


「ノロの惑星の太陽系の外へ空間移動!」


「空間移動開始!」


「空間移動完了」


「よし!」


 フォルダーが立ちあがるとよくとおる声で命令を継続する。


「次元移動開始。全員ショックに備えろ。中央コンピュータ、頼むぞ。おまえだけが頼りだ」


「任せてください。次元移動準備完了。多次元エコー装置の全エネルギー解放!時空間移動エンジン停止。反重力エンジン停止」


 ブラックシャークに大きな衝撃が走る。船首から粉のような虹色の細かい輝きが広がると、前方にあらゆる色を含んだ大きな光の塊が形成される。その光の塊を追いかけるようにブラックシャークのスピードがゼロから一気に無限大に加速する。噴火する火山の真上にいるようなきつい衝撃がブラックシャークを直撃する。


「バラバラになるぞ!」


 フォルダーが叫ぶ。ブラックシャークは虹色に輝く光の塊に追いついてその中に突入する。

 

[543]

 

 

メイン浮遊透過スクリーンが美しい虹色に輝くと、深いが透明感のある緑色の泡立つものにおおわれる。まるで海が沸騰しているような光景に変化する。白波が沸騰した海から現れては渦を巻くと怒濤のごとく迫って来るような光景だ。時間が割れて空間が引き裂かれる。


 誰もが恐ろしさのあまり目を閉じるが、目を開けたときには何ごともなかったように緑一色の画面になっている。落ち着いた中央コンピュータの声が静かにメイン浮遊透過スクリーンを見つめる者の耳に届く。


「次元移動完了」


 いつの間にかブラックシャークから振動が消えて、すべてが静寂の世界に包みこまれる。メイン浮遊透過スクリーンは古い時代のグリーンモニターのように、緑色の背景に白い数字とアルファベットが流れるように次々と表示される。


「現在位置確認!」


「確認不能」


 操縦士、航海士、測敵士から同じ返事が返ってくる。


「中央コンピュータ!ブラックシャークは本当に六次元の世界、しかもノロがさらわれた時空に到達したのか」


「それは、あの、その、ただいま確認しています」


「でも、ここがノロのさらわれた世界だとしたら、まったく未知の世界だ」

 

[544]

 

 

 瞬示がやっと声を出す。フォルダーは平然とした表情で瞬示に応える。


「俺たちはいつも地図のない宇宙を航海してきた。心配するな」


 フォルダーの言葉のあとにイリの声がする。


「生命永遠保持手術の準備は完璧だわ。あとは『死ぬ。死ぬう』とわめきながら助けを求めるノロを待つだけだわ」


 真美はイリのなんともいえないノロに対する愛情を感じる。イリはノロを一途に愛している。それはベタベタとした粘りけのあるものではなく素っ気ないようにも見えるが、実は奥の深い機敏な理性に支えられたたぐいまれな心から自然にふきだしたものだ。瞬示も真美も同じ感覚を共有する。ふたりはイリが気丈夫なだけの女ではないことに改めて気付く。


 メイン浮遊透過スクリーンは相変わらず緑一色で複雑な記号や数字、そしてそれらを結ぶ演算記号が現れては消え、消えては現れる。まったく音がしない。


「六次元の世界には音がないのか」


 フォルダーがつぶやいたとき、中央コンピュータの報告が入る。


「確認完了。間違いなくここは六次元の世界でノロを乗せた時間島の到達地点です。ただし、それ以上のことはわかりません。演算を続行します」


「わたしたち、ブラックシャークの外に出てノロを捜します」


 真美の言葉に瞬示が驚く。同時にイリの身体がピクッと反応して真美を見つめる。

 

[545]

 

 

「わたしたち自身のためにも、行動を起こさなければ」


 真美が瞬示を強くうながすが、瞬示はためらう。


「わたしたち、ひょっとしたら緑の時間島で色々探索できるかもしれない。最長は緑の時間島を操ることはできなかった。黄色の時間島を操作するのはうまかったけれど」


 ふたりのそばにイリが近づいて真美の腕を強くつかむ。


「お願い!私もいっしょに連れていって」


「それは無理だ」


 瞬示が残念そうにイリを見つめる。


「でも、ノロは躊躇することなしに丸腰で六次元の世界に向かったわ。生命永遠保持手術の効果が消えると言ってたわりには平然としていたわ。きっと逆にノロは時間島の中にいれば安全なのを知っているのよ。まして緑の時間島ならもっと安全じゃないのかしら」


 瞬示がイリの気迫に押される。真美が意外にもあっさりとイリの見解に賛成する。


「無理だと決めつける必要はないわ」


「フォルダー、私、ノロを連れて帰ってくる。いつでも生命永遠保持手術ができるようスタッフに緊張感を与えておいてください」


 フォルダーがイリを直視してうなずく。


「イリの好きなようにしろ」

 

[546]

 

 

***


 薄ら明るい緑の時間島の中でぼやけたみっつの裸体が浮かんでいる。


【これが六次元の世界なのか】


 瞬示が興奮した信号を真美に送る。瞬示と真美の関節という関節が淡い緑の時間島の中で鮮やかなピンク色に輝く。


 濃淡のない緑一色の世界で、目を開けているのか閉じているのかわからないような、そしてどちらが上か下かもわからない。イリはすべての感覚を失う。眠りそうになる意識を必死でつなぎ止めるようにノロの名前を何度も何度も呼び続けるが、自分の声すら聞こえない。


【イリは大丈夫だろうか】
【時間島の中にいる限りは大丈夫だわ】
【でも時間島の中と外の区別がはっきりしないなあ】


 少しのんびりとした信号を送る瞬示に、真美が強い信号を発する。


【瞬ちゃん!】


 ふたりの目の前に三次元的な感覚で見えるものが初めて現れる。碁盤の目をした数えきれないほどのグリッドが立方体に昇華されて激しくお互いにすり抜けながら膨張したり縮小したりして様々な正方体にめまぐるしく変形しながらあらゆる方向に移動する。やがて黄色に輝く形のないものが数多く現れて、点滅しているのか移動しているのかわからない動きを示す。

 

[547]

 

 

 その後、真っ赤に輝いてはいるが、形が定まらないものが多数現れて同じような動きの中で黄色い輝きと重なったり離れたりする。腹に響く重低音が瞬示と真美そしてイリの身体を激しくバイブレートする。先ほどの変形を繰り返す正方体からの強烈な光線が次々と緑の時間島を突きぬける。衝撃は消えるがその光線が瞬示と真美のすべての関節を強く刺激する。


【気が変になる】


 時間島が一瞬、緑色を放棄して真っ赤に染まったかと思うと、沸きだつような泡に満たされる。真美の身体の全関節がピンクに染まり、一カ所に集まって大きな塊を形成すると、一気にまわりに向かってピンクの激しい輝きを発散する。時間島はすぐに元の色を取りもどすと一部がぼやーとした黄色に変色する。


【合体するわ】


 確信に満ちた真美の信号が瞬示のあらゆる関節に突きささる。瞬示のすべての関節もピンクに変色して一カ所に集合する。


【マミ!】


 瞬示が強力な信号を真美に送ると観念的に真美を抱きしめて合体する。もはや人間の身体ではなく、大きさも形もわからないエネルギーだけのような存在にふたりは変態する。そして、ひとつの身体の中でふたつの意志が共同作業を開始する。


【時間島をコントロールして!】

 

[548]

 

 

 真美の悲痛な信号に瞬示が津波のような怒濤の信号を送り返す。


【ノロだ!ノロだ!ノロがいる】
【ノロだわ!】


 ふたりの意志だけがノロの存在を確認し、引きよせ、イリの横に移動させる。ノロとイリの距離が近くなると音もなく虹色の光が現れてすぐに破裂して消える。


【散らばらないうちにブラックシャークに!】
【時間島をコントロールできないわ】


 瞬示と真美はひとつの身体の中で意志もひとつになる。完全に六次元の生命体に復帰したのだ。そして合体した意志が一人称となる。


【別の意志が感じられる。最長か】


 再び虹色の光が現れてまわりに広がる。


【最長じゃない。ノロとイリ?】


 虹色の輝きが急に集結しはじめる。


【ノロもイリもひとつの意志に収束したのか】


 色が消えてまぶしい白い点が残る。


【今だ!ブラックシャークに戻ろう】
【だめだ。次元調整がうまくいかない】

 

[549]

 

 

【分離する】


 ここで意志が分離する。まず、真美の意志が信号を発する。


【どうすることもできないわ】


 そして瞬示の意志も信号を発する。


【ブラックシャークもろとも次元移動するしかない!】

 

[550]