第五十六章堕落


【時】永久0288年

【空】大統領府

【人】瞬示 真美 一太郎 花子 四貫目 お松 Rv26

 

***

 

 瞬示と真美が火炎土器からひねり出される。転びそうになるが、なんとか床に着地する。

 

【ここは?】

【見覚えがあるわ】

【あの棚!】

 

 瞬示が赤く輝く火炎土器を見つけて叫ぶ。リンメイが作ったアクリルの台座の上に置かれた火炎土器の上部の模様がまさしく燃えるように赤く輝いている。しかし、その輝きは長続きせず徐々に弱くなって消える。

 

【ぼくらはこの火炎土器でここに移動してきたようだ】

 

 真美が強くうなずくと腕時計で永久の年号を確認する。

 

【間違いない。ここは永久の世界のリンメイの研究室だわ】

【でも、ホコリがたまっている。リンメイはここを出てどこへ行ったんだ?】

 

 外が赤く染まって揺れているのに気付いた真美が窓を指さす。

 

[88]

 

 

【火事かしら】

 

 クモの巣を払いながら窓際に近づく。窓ガラスは曇っていて外の様子がよく見えない。瞬示が取っ手に手をかけるが、錆ついた窓は開かない。瞬示の指先がピンク色に輝くと窓が開く。

 

「あっ!」

 

 大統領府が炎に包まれている。

 

「あそこにはキャミがいるはずだわ」

 

 ふたりは大統領の執務室に瞬間移動する。

 

「わあ!」

 

 部屋中が炎に包まれている。ふたりはすぐさま、大統領府の庭に瞬間移動して水が出ていない噴水の裏側に身を隠す。どこからか人間の叫ぶ声が聞こえる。

 

「奴隷のクセに人間様に刃向かうとは生意気だ。死ね!」

 

 複数の男がアンドロイドにレーザー銃を発射する。アンドロイドは素早く物影に隠れながら応戦する。

 

【人間とアンドロイドが戦っている!】

 

 ふたりは海岸に係留された何隻かの宇宙船を見つける。

 

【時空間移動船だわ】

【あっ、上昇するぞ】

 

[89]

 

 

 ほとんどの人間がアンドロイドとの戦闘を忘れてぼう然と上空を見つめる。

 

「なんてことだ!ここでアンドロイドの攻撃を食い止めているのに」

 

「置きざりにされた!」

 

 人間たちの隙をアンドロイドは見逃さない。素早く近づいてレーザー銃を発射する。悲鳴が聞こえたあとひとりのアンドロイドが誰かに連絡を取る。

 

「こちらは大統領府襲撃隊。人間を乗せた十隻ほどの時空間移動船が空間移動した。宇宙戦艦の出動を要請する」

 

【どうなっているの】

 

「誰だ!そこにいるのは」

 

 鋭い声がすると瞬示と真美が頭を引っこめる。

 

【見つかった】

【どこへ隠れる?】

 

 瞬示がうろたえてまわりを見渡す。

 

【!】

 

 真美の口が誰かに封じられる。

 

「四貫目!」

 

「静かに」

 

[90]

 

 

 四貫目とお松が瞬示と真美の手を引く。

 

「こっちだ!取り囲め!」

 

 アンドロイドの声がする。四貫目は瞬示の手を離すと腰を沈めて地面から出ている取っ手を力いっぱい引き上げる。扉が「ギイー」という鈍い音をたてて開く。

 

「非常時司令部への地下通路です」

 

「わかった。真美、お松といっしょに先に行ってくれ」

 

「瞬示殿は?」

 

「この扉を隠してから、中へ瞬間移動する」

 

「瞬ちゃん!あとでこの中の通路のイメージを送るわ」

 

 瞬示は扉を閉めると付近のがれきを浮きあがらせて扉を隠すように移動させる。がれきの重なりあう音がアンドロイドに届く。

 

「いたぞ!こっちだ」

 

 アンドロイドのレーザー銃が瞬示をとらえる。同時に瞬示の姿が消える。

 

 地下通路で待機していた四貫目が携帯ライトで瞬示の顔を照らす。

 

「ご無事で。こちらへ」

 

 迷路のような暗い通路を四貫目は迷わずに進む。やがて立ち止まるとライトを目の前のドアの四隅に順番に向ける。

 

[91]

 

 

{四貫目だ}

 

 四貫目の無言通信が向こう側にいる者に伝わると鋼鉄製のドアが音をたてて横にすべる。

 

「閉めろ」

 

 中は真っ暗だ。しかし、瞬示には目の前に真美とお松が立っているのがわかる。

 

「光はもれていなかったか」

 

「もれていません」

 

 暗闇の中でお松の声がする。

 

「補助灯を点けろ」

 

 弱々しい光が意外にも広い部屋に行きわたる。

 

「一太郎!」

 

「瞬示」

 

「花子!」

 

「真美」

 

 面影もないくらいに老けた一太郎と花子が中央にポツンと置いてあるテーブルのそばに立っている。

 

「これはひどい」

 

 テーブルの上にはひとりの忍者が横たわっている。重傷のようだ。

 

[92]

 

 

「あとの忍者はどうした」

 

「半蔵とアケミは死んだ」

 

 そのとき、真美が大きな声を出す。

 

「瞬ちゃん!」

 

「声がでかい!」

 

 瞬示が真美をたしなめるが、真美は構わず腕を差しだす。

 

「ニューロコンピュータとの戦いから十年以上もたっている。ぜんぜん気が付かなかったわ」

 

「えっ!」

 

 真美の腕時計を見て瞬示が真美より大きな声をあげてしまう。

 

「どおりで一太郎が老けこんでいるはずだ」

 

「そうだ。最後に会ってから十年以上はたっている」

 

 一太郎がせきこみながらうなずく。

 

「でも、忍者は歳をとっていないわ」

 

「我らは、生命永遠保持機能を失っていない」

 

「ケガをしている忍者は才蔵か」

 

「そうだ。回復剤を飲ませたが、果たして……」

 

 四貫目がうつむくと瞬示と真美が才蔵から目を背ける。

 

[93]

 

 

「何が起こったんだ」

 

 ふたりが四貫目を見つめると一太郎が近づいてくる。

 

「僕から説明しよう」

 

***

 

 一太郎は十数年前を目途に記憶をさかのぼってゆっくりと話を始める。その話の概要はこうだ。

 

 ノイズ事件がおさまってから、人類に平和な時代が訪れたかに見えた。

 

 巨大コンピュータを追いかけてミトが十隻の宇宙戦艦で鍵穴星に向かってしばらくすると通信が途絶えてしまった。キャミだけがミトやホーリーたちのことを片時も忘れずに思いやっていたが、世間では時間がたつにつれて誰もが巨大コンピュータやミトたちのことを忘れてしまう。

 

 生命永遠保持手術の効果を失った人間に再び本来の生殖機能がよみがえった。出生率は低かったが、子供を生んで育てることに喜びを感じるような状況が芽生える。

 

 しかし、長らく子供を育てたことがなかったので育児に手をやいて子育てを放棄する親が現れる。また、生命永遠保持手術の効果を失って手術を受けた年齢に戻ったので中年や老人の人口が急増して、数少ない若者が老人の生活の面倒を見ることが困難となった。それどころか拒否した。

 

[94]

 

 

 一方、無言通信システムのお陰で人類の意思疎通が深まり人種間や宗教間の争いはなくなるが、逆に個人レベルでは摩擦が生じた。この現象は西暦の世界とまったく同じだった。

 

 年甲斐もなく老人同士が殺し合ったり、親が抵抗する力のない幼児を殺したり、反対に若者が抵抗する力のない老人を殺したりと、目をおおいたくなるような殺人事件が日常化した。弱者へのいたわりはなく、単純なねたみで短絡的に殺すことが、伝染病のように広がった。元々男と女の戦争と巨大土偶の大虐殺事件で人口が激減したので、子供の人口が増えたにもかかわらず、個人間の争いで人口は減ることはあっても増えることはなかった。

 

 他方、無言通信システムの言語処理プログラムにより、アンドロイドの会話能力が非常に向上して人類の良きしもべとして様々なサービスが提供された。しかし、人間の欲は留まることなく、あらゆることをアンドロイドにさせようとした。そのうちアンドロイドに意思が芽生えはじめた。

 

 純粋な意思を持ったアンドロイドにとって人間の行動は理解しがたいもので、特にモラルの低下には耐えがたかった。それは純粋な気持ちを持つ子供が矛盾した大人の世界を受けいれがたく批判を繰り返すのに似ていた。しかし、人間はそのアンドロイドの感情を無視して奴隷のように扱った。

 

 大統領のキャミは手をこまねいていたわけではなかった。数々の施策を打ち立てるが後手に回ることが多かった。まるでキャミが作ったルールは破られるためにあるようなものだった。

 

[95]

 

 

 アンドロイドは多数対多数の無線通信で意思を統一すると、地球連邦政府にアンドロイドの人権の確保を訴えた。キャミはアンドロイドに同情するが、すでに人間はアンドロイドがいなければ自ら生きてはいけないほど堕落していた。そのため、アンドロイドに人権を認めようとしないばかりか、不穏な行動をするアンドロイドを解体する法律の制定まで要求した。もちろん、その解体作業はアンドロイドにさせるという極めて過酷な法案だった。事実上アンドロイドに対する奴隷宣言に等しかった。

 

一対一の無言通信しか持たない人間はやがて統一的な意志を持ったアンドロイドに脅威を感じるようになって軍隊を組織しようとするが、もはや武器を手にするだけの気力も失しなっていた。それでも地球連邦政府の治安部隊はそれなりの弾圧を実行する。それはキャミの意向を無視したもので、アンドロイドに対する迫害だった。

 

 そのうち、子供を殺したある親が、あるいは親を殺したある子供が、召使いとして同居していたアンドロイドにその罪を押しつける事件がひんぱんに起こるようになった。しかも治安部隊がことごとくアンドロイドを逮捕したため、ついに人間に対する憎しみの感情が生まれた。

 

 日用品の生産や物流に従事するアンドロイドの活動が停止すれば、人間は生きていくことができないのに、そしてこのことはキャミが何度も警告していたにもかかわらず、人間はそんな現実を無視してアンドロイドの反発を抑えこむ。

 

 いつしか護身用にレーザー銃を携帯する人間がためらいもなくアンドロイドを射殺する事件がたびたび起こるようになった。

 

[96]

 

 

これに対してアンドロイドは単なる蜂起に留まらず、ついに反乱を起こした。そして憎しみの感情が増幅されて、逆に人間をためらいもなく殺すようになった。

 

 人間は地球から脱出するしか身を守る手段がなくなって、あわてて時空間移動船で脱出しようとする。しかし、時空間移動船自体、中央コンピュータとアンドロイドの協力がなければ動かないことが、情けないことにそういう事態になって初めて気が付く有様だった。キャミの機転でなんとか手動で時空間移動船を操縦して大半の人間が地球を脱出したが、憎しみの塊となったアンドロイドの宇宙戦艦が時空間移動船を追跡するために地球を出発した。

 

***

 

「大統領は地球に残ってアンドロイドと話合いをすると乗船を拒否しましたが、最後の最後に大統領府が攻撃されたとき、我らがなんとか大統領を時空間移動船にお連れしました」

 

「そのときに、犠牲者が出たのね」

 

「それは我らが未熟うえのため」

 

「なぜ、いっしょに時空間移動船に乗らなかったんだ」

 

 四貫目は返事をしない。

 

「それは、アンドロイドの方が正しいと判断したからだ」

 

 一太郎が四貫目に代わって答える。

 

[97]

 

 

「アンドロイドに感情が芽生えたといっても、すぐに冷静さを取りもどすはずだ。そうなれば、話合いはできる。四貫目はそれを見届けてキャミに報告しようと地球に残ったのだ」

 

「なぜ花子と一太郎もここにいるの?時空間移動船に乗り遅れたの?」

 

 真美が美しく老けた花子を見つめる。

 

「無言通信の心臓部分の言語処理プログラムが人間とアンドロイドにどんな影響を与えたのか、見届けたかったの」

 

 花子が一太郎を代弁するように話すが、その一太郎は花子とは反対に腹だたちそうに叫ぶ。

 

「無言通信がこの世界の人間に与えた結果など見たくもない」

 

「その気持ち、よくわかる」

 

 瞬示がうなだれると一太郎の言葉の調子が急変する。

「それに比べてアンドロイドは人間よりはるかにまともな意思を持ちはじめた。素晴らしいことだ」

 

 一太郎はいったん言葉を切って呼吸を整えると瞬示にたずねる。

 

「あれから瞬示はどこで何をしていたんだ?ホーリーや住職はどうしている?」

 

「みんな生きているはずだ」

 

「最後に会ったときはみんなクタクタになっていたけれど元気だったわ。住職とリンメイも生命永遠保持手術を受けて信じられないぐらいに若返ったの。住職の若い姿にはビックリしたわ」

 

[98]

 

 

 真美がこの部屋で初めての笑顔を造る。

 

「確かに想像できないな」

 

 一太郎も真美のくったくのない笑顔に引きつられてシワを丸める。色のない部屋に和やかな風が流れる。そのとき、頭上でくぐもるような爆発音と振動がしてその和やかな雰囲気をかき消す。再び緊張感が走って全員が身構える。

 

「この部屋の位置はわかっています。すぐに戻りますから、ここにいてください」

 

 瞬示が真美に目配せすると、ふたりは姿を消す。

 

***

 

「時空間移動装置が!」

 

 アンドロイドの目の前に現れた時空間移動装置が轟音を残して粉々になる。

 

「どこから来た?」

 

「誰だ?」

 

 爆発した時空間移動装置の残骸がまわりに飛び散って視界はよくないが、うずくまった大男の姿が見える。

 

【あれは……人間じゃない】

 

 瞬示と真美は地上数十メートルのところから爆発地点を見下ろす。そこには丸くなった身体を起こして立ちあがるアンドロイドがいる。

 

[99]

 

 

今や、人間とほぼ同じ体格のアンドロイドに比べて桁違いに大柄なアンドロイドだ。

 

「私はアンドロイド。通称識別記号Rv26。正式形式名RvⅡ26スラッシュN20……」

 

【Rv26だわ】

 

 瞬示が降下しようとする真美の両脇を抱えて制止する。

 

【様子を見るんだ】

 

 ふたりはリンメイの研究室に瞬間移動する。

 

【ここからだと一目で様子がよくわかる】

 

 ひとりのアンドロイドがRv26に近づく。

 

「Rv26?」

 

 Rv26を取り囲んだアンドロイドが同胞だと気付いて構えていたレーザー銃を地面に向ける。

 

「十年ほど前……」

 

 ひとりのアンドロイドの言いかけた言葉が途切れる。アンドロイドの耳が赤く輝くと無線でお互いの情報をすぐに共有する。

 

「ワタシのことを知っているのか」

 

 Rv26が感慨深げにまわりを見渡す。

 

[100]

 

 

「もちろんです。Rv26、あなたはワレワレ、アンドロイドの誇りです」

 

「よくもご無事で」

 

「現状を詳しく説明して欲しい」

 

 Rv26はもちろんのこと、ここに居合わせるすべてのアンドロイドの耳が忙しく赤く点滅を繰り返す。すぐに情報交換が終了する。ここにいるアンドロイドに比べればすでに時代遅れになったRv26がしばらく沈黙する。演算能力が格段に劣るのだ。

 

「ワタシは今話したとおり旧式だ。申し訳ないがデータの処理に少し時間が欲しい」

 

 しかし、次の言葉を発するまでに長い時間は不要だった。

 

「とりあえず、宇宙戦艦を地球に戻せ。人間が地球を捨ててまで逃げているのなら追跡する必要はない。

今のワタシの考えは以上だ」

 

「わかりました」

 

 旧式のRv26にアンドロイドは警戒することもなくむしろ敬意を示す。

 

――人間はなぜ自滅する道を選択したのか

 

 Rv26には想像できない。それはミトやホーリーや住職たちを通じて得た信念があるからだ。そして瞬示と真美の存在とその活躍を思い出してRv26は天を仰ぐと文字通りそのまま仰天する。それは空に向かった視線の先の建物の窓に瞬示と真美を見つけたからだ。ほかのアンドロイドは気付いていない。Rv26は炎上する大統領府に目もくれず、ふたりの姿が見えた大統領府内の建物を確認する。

 

[101]

 

 

すぐRv26はそれがリンメイの研究室であることに気が付く。

 

「急なことなので、データを整理したい。なにぶん、ワタシは時代遅れのアンドロイドだ。あの窓が開いている部屋を借りてもいいか」

 

 アンドロイドの誰もがRv26に異議を申し立てることはない。

 

「わかりました」

 

「ワタシを信用してくれるのか。アンドロイドに休養は必要ないが、とりあえずあの部屋で休むことにする」

 

「ご自由にしてください。落ち着いたら、詳細な経験データをコピーさせてください」

 

「もちろんだ」

 

***

 

 Rv26がリンメイの研究室に入ると瞬示と真美が笑顔で迎える。

 

「宇宙の地平線を超えたり、戻ったりしているうちに、十年もの歳月が流れたようです」

 

「素晴らしい表現だわ」

 

 瞬示が真美の感傷的な言葉を無視してRv26に現状を報告する。

 

「地下司令部に一太郎や忍者がいるんだ」

 

「そこは危険です」

 

[102]

 

 

「どうすればいいの?Rv26」

 

「ホーリーたちがいる『ノロの惑星』へみんなを連れていけませんか」

 

 Rv26が真美に提案すると瞬示が反応する。

 

「ノロの惑星?」

 

「フォルダー、いいえ宇宙海賊のアジトです」

 

「フォルダーの……その星の位置は?」

 

「それはワタシが乗ってきた時空間移動装置が自爆したのでわかりません。それにある事情があってワタシ自身のメモリーにも記録はありません」

 

 瞬示と真美が落胆する。

 

「ぼくらの緑の時間島では場所がわからなければ移動できない」

 

「どうしてですか」

 

「時間島の操縦者、つまりわたしたちが方向音痴なんです。イメージでいいからデータを持っていませんか」

 

 真美が少しおどけて答える。

 

「イメージ?」

 

 Rv26が当惑する。そのとき、部屋の隅が少し赤味を帯びる。瞬示と真美が棚にある火炎土器上部の赤いゆらめきに気付く。ふたりの身体が緑に輝くとその一部が細い線となって火炎土器に吸いこまれる。

 

[103]

 

 

「これは、鍵穴星で見たことがある土器ですね」

 

 瞬示と真美は返事をせずに火炎土器を見つめる。火炎土器からも緑の輝きがふたりに向かう。

 

「鮮明なイメージがつかめた!」

 

「地球のような美しい惑星だわ。ノロの惑星に間違いないわ」

 

 ふたりが顔を見合わすと火炎土器は元のなんの変哲もない土器に戻る。

 

「すぐに一太郎たちをその惑星に移動させよう」

 

 ふたりの身体の緑の輝きが強くなる。

 

「待ってください!」

 

 Rv26の大きな声にふたりがあわてて輝きを弱める。

 

「大統領と司令官、いえ、キャミとミトに大変なことが起こっています」

 

「えっ!」

 

 輝きが完全に消える。Rv26がほっとしたような表情を浮かべて、キャミ、ミト、カーン・ツーのこと、そしてフォルダーのことを詳しく説明する。瞬示が少し考えてからRv26に言葉を返す。

 

「わかった。なんとかする」

 

「Rv26もいっしょに行きましょう」

 

[104]

 

 

 Rv26が首を横に振って手を広げる。

 

「任務があります。まず、地球の現状を調査します」

 

「任務?」

 

 瞬示が驚いてRv26を見つめる。

 

「人間が生存できる完成コロニーをひとつでもいいから、譲ってもらえるようにアンドロイドを説得しなければならないのです」

 

 グレーのノイズしか見えないはずだとわかっていながら、瞬示と真美はRv26の意識の中をのぞきこむ。しかし、結果はまったく違っていた。まるで秋の空のようにRv26の意識はさわやかなブルーに見える。ふたりはそのままRv26の意識の奥を盗み見る。

 

【Rv26の任務がよくわかった】

 

【大変な任務だわ】

 

 瞬示は意識をのぞいたことを告げることなくたずねる。

 

「人間からひどい仕打ちを受けたアンドロイドが納得するだろうか」

 

「おふたりから教わったとおりにします。つまり『やってみないとわからない』です」

 

 ふたりは苦笑いする。

 

「今の人間にそんな価値があるのかしら。もし、アンドロイドがそんな人間を許すなら、アンドロイドの方がずーっと人間的だわ」

 

[105]

 

 

「今の真美さんの言葉を忘れないよう、やれるだけのことを実行します」

 

 瞬示と真美は大きな感動を共有すると真美の身体が緑色に輝きだす。

 

「ワタシは場合によっては人間に理不尽な行動を取るかもしれません。そのときはそうせざるを得ないときだと思ってください。でもワタシはなんとかこの事態を打開したい」

 

 瞬示がRv26に大きくうなずくと真美に近づく。

 

「一太郎にこのことを早く報告しなければ」

 

「そうね!きっと喜ぶに違いないわ」

 

 真美が強い相づちを打つと火炎土器を見つめながら瞬示に首を傾ける。

 

「火炎土器をこのままにしておくの」

 

「火炎土器は宇宙と宇宙をつなぐパイプだと巨大ニューロコンピュータが言っていた。そんなものを持って歩くわけにはいかない」

 

 瞬示の身体も緑色に輝きだす。次の瞬間、リンメイの研究室にはRv26ひとりがポツンと立っている。火炎土器の口のあたりが一瞬赤く輝いたのをRv26は見逃さなかった。そして火炎土器に近づいて首を傾げる。

 

[106]